読書感想文コンピュータ編日本語情報処理

FRONTIER TECHNOLOGY SERIES
電子出版  情報の編集革命

著 者:平尾陽一郎、江成保徳
発売元:丸善 株式会社
発行日:昭和63年 3月30日 初版第1刷
定 価:1339円
サイズ:B6版 135ページ
ISBN 4-621-03255-0


本書は、古い本である。昭和の末期に書かれた電子出版の本であり、その後 電子出版は急速に発展し、普及した。なのに、わざわざこの本をここで紹介し ようとするのには、特別な理由があるからである。

両著者は、日本最大の印刷会社である 大日本印刷 の人である。とりわけ、江成保徳氏は、大日本印刷の電算写植機(CTS)の 開発の中心人物であるからである。

さて、内容であるが、前半の、電子出版の概要というか、抽象論の部分を平 尾氏が担当しているが、ここははっきり言って、全然面白くない。あまりにも 包括的で、今更読んでも殆んど意味がないであろう。

後半は、実際のCTSの開発とか、広辞苑のCD−ROM化の話とかが出て くるのである。でも、章題に比べて、その内容はかなり具体性の欠けるものに なっているのは残念であった。

本書全体で、「キャプテン」について何度も触れられている。そして、かな り高い評価が与えられているが、これは完全に著者達の予想が外れていること である。

本書が書かれた時点では、ワークステーションといってもSUN3であり、 これからパソコンも32ビットになるので、ああだ、こうだ、と書いているの であるが、コンピュータ、パソコンの進歩は本書の予想範囲を遥かに越えてい る。つまり、本書で大型コンピュータ、高性能ワークステーションでプロ用の 印刷に耐えるものを作っているとあるが、今のペンティアムなどの載ったパソ コンは、それらを遥かに越える性能を持っている。つまり、パソコンでちゃん と書店に並べられる本が、充分にできる時代にすでになっているわけだ。

実際に、私の書いている本とかは、今ではほぼ全てがMAC上のDTPで作 られ、出版社内部でフィルム出力までされたりしている。もはや、電算写植機 を通り越し、DTPが中心になりつつある時代である。しかし、まだ一方では、 フォントがない為に、電算写植、それから昔ながらの写植、さらには活版すら も混在しているのが現状である。

そういえば、昔、日本語関係のニュースで、電算写植も、電算なしの写植も 同じではないかと、印刷出版関係者が聞いたら、ずっこけるというか、椅子か らころげ落ちることを堂々と書き込んでいた者がいた。テクニカルというか、 そういう勉強だけでなく、実際の現場についての知識も、本で分かる程度で良 いから知っておいて欲しいものだ。

この本の良くないところは、「電子出版」という非常に広範囲に及ぶ分野を 1冊に書いてしまおうとして、内容がぼやけてしまったことであろう。CTS についてなら、それだけについて書けば、具体性も高まり、歴史的にも価値の ある本になったであろう。

さて、こんな評価しかできない本なのであるが、わざわざここに書いたのに は、ちゃんとした特別な理由があるからなのだ。

大日本印刷の江成氏は、日本の電算写植の草分けの一人である。これは良く 知られたことである。それだけではなく、もっと広い意味での電子出版の発展 のために力を尽した方であった。さらに、UNIXの普及にまで協力してくだ さった方である。また、私のような、印刷などについて何も知らない人間にま で、いろいろ指導や協力をしてくださった方であった。

過去形で書いたが、非常に残念なことに、江成氏は、既に他界されてしまっ た。大日本印刷にとっては大変な痛手であったろうと思う。それだけではなく、 まだまだ日本の電子出版の発展の中心になって活躍される筈だっただけに、非 常に悔やまれることである。


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