読書感想文コンピュータ編その他(トラブル本)
書名パソコンは思考の翼
叢書ちくま学芸文庫 イ−13−1
著者岩谷宏
初出1989年7月30日に筑摩書房より
『ラジカルなパソコン入門』として刊行。
本書は、これを改訂・改題したもの。
発行日1996年8月8日
発行元株式会社筑摩書房
頁数文庫版、264頁
定価920円
ISBN4-480-08289-1

コンピュータ、とりわけCおよびC++プログラミングの世界では著名な岩 谷氏の文庫本である。本屋をぶらついていた時、文庫の新刊の中に岩谷宏の名 前を見つけて、「これは買うしかあるまい」と思って買ったものである。

文庫本であるが、パソコンの単なる入門書ではなく、パソコンでプログラム を作りたい人のための本であると、序文に書いてあった。別の言い方をすれば、 パソコンに使われるのではなく、パソコンを自分の意志で使いこなしたい人の ための入門書を目指しているようだ。

  1. パソコンとワープロはここがちがう
  2. パソコンはどんな構成になっているか?
  3. パソコンの動作を追ってみよう
  4. 情報の電子的処理とは何か?
  5. 便利にできているパソコンの利用環境
  6. プログラミングのための道具を使おう
  7. パソコンはコミュニケーション能力を拡張する
  8. 姿を現してきた未来
目次からは、ごく一般的な入門書、あるいは解説書の感じを受けるが、この 本の実態は、岩谷氏のパソコンに対する強い思想が随所に現れている書である。 後半に行けばいく程その傾向は強くなり、7.と 8. では、それが主題となる。

「8.姿を現してきた未来」は、文庫化のために、急遽追加された。オープン なシステムやインターネット、JAVAのことなどが書かれている。

オープンなUNIXシステムとして、安心して使える無料UNIXシステムの中で一 番人気のあるのがLinuxで、これは、Linusくんというデンマークの学生が‥‥ とありますが、これはフィンランドの学生の誤りです。ちなみに、 Linusくんのホームページ もあります。

さて、本書の前半の方は、かなり普通に近い入門書の形になっている。しか し、入門書にしては図や写真などは非常に少なく、文章による説明が多い。

入門者にコンピュータについて説明する時、多くの場合「たとえ」が使われ るのだが、いつもたとえのところで「そのたとえはちょっと違うんじゃない」 と思うことがある。たとえは本当に難しいので、私自身は意識的に使わないよ うにしている。

本書のたとえも、かなり無理が多かったように思う。「たとえ」を使うと理 解が深まるのか、下手をすると曲解するのではないかという疑問がいつもある のだが、本書でもたとえには随分違和感を感じざるを得なかった。

第5章で実際のパソコンの例として、NECのPC9801の話が出て来る のであるが、さすがこの辺りは昔話になってしまっている。あちこち改訂の跡 があるが、この部分はほぼ原形のままのようだった。

コンピュータの性能の話が良く出てくるが、最初の執筆時点のままになって いるので、本書でスーパーコンピュータの性能は云々というのが大体現在のパ ソコンの性能になっている。つまり、7年程の間に、パソコンの性能が約10 0倍になってしまったということもひしひしと感じさせてくれる。

219ページに

コンピュータがパーソナル・コンピュータとして普及していくことは、パン ドラの箱を開けたことにも似ています。
とあるが、
インターネットが普及していくことは、パンドラの箱を開けたことにも似て います。
と直してみると、今の日本の状況を非常によく反映しているのではないだろ うか。官公庁、役所などが大いにインターネットの普及、高度情報化社会をう たいあげているが、インターネットが汚職、贈収賄などの暴露にこそ大いに利 用されるのではないかと心配してしまう。


読書感想文コンピュータ編その他(トラブル本)