読書感想文コンピュータ編その他(トラブル本)
裏表紙 書名マンガ ソフトウェア革命
Σプロジェクトの全貌
監修IPA(情報処理振興事業協会シグマシステム開発本部)
発行日昭和62年10月31日
発行元株式会社コロナ社
頁数A5判、303頁
定価1200円
ISBN4-339-02254-3

この本、実はインターネットで飛んできた。

もう少し詳しく書くと、 「この本を持っているのだが、私がっていても仕方がないし、 できればこの本を読んで読書感想文を書いてくれないだろうか」 というようなメールがやってきたのである。 まあ、これもΣの話を 『(コ)の業界のオキテ』 に書き、さらに絶版になったその本をここで公開している影響かと思う。 という訳で、捨てられるかも知れなかった稀少本を送ってもらったのである。 こういうこともあり、インターネットは本当にすばらしい。

Σプロジェクトは、昭和60年に始まり、 この本が出たのが昭和62年10月ということだから、やっと予定の5年の国 家プロジェクトが半分済もうとしていた頃である。 要するに、このプロジェクトが失敗だとは世間のほとんどはまだ気が付いてい ない時期に出されたものである。マンガでΣプロジェクトを説明することで、 より広く世間を啓蒙しようと試みた、とても進歩的な本だったのかもしれない。

本書の構成であるが、マンガと技術的なことや背景などの説明が交互に出てくる。 一般の人向の啓蒙書を目指しているようで、 それほど深いところを書こうとしているわけではないが、 最近のサルでも分かる(サルに対しても失礼みたいな本)とは違い、 結構システム構成図なども出てくるとても真面目な本である。

まだ、バブルの前で、ソフトウェア開発をもっと効率よくしなくてはならない し、ソフトウェア要員の不足が深刻ということと、当時のメーカーごとにまっ たく異なるコンピュータに悩ませれていた当時、UNIXをベースに、日本語を 自由に操れ、開発からビジネスまで、メーカー間の違いを意識しないで使える Σコンピュータを、そしてΣネットワークを作ろうという壮大なというか、 遠大な計画があり、それをマンガで説明しているのである。

マンガは、Σプロジェクトはこんなにすばらしいものだよ、という啓蒙のため なので、まあよくあるビジネス系のマンガと思えばよい。たくさんの架空の企 業名が登場してくる。 主人公は、山野証券(山の方は潰れた)システム部開 発部長である。外資系証券会社のジェネラル・マネージャはゴールドマン氏だ し、三田電気、トヤマ運輸、なども出てくる。

新宿の大手ソフトウェア企業COCを退社した2人が、一人は小さな会社を作 り、もう一人は腕一本で個人でやろうとするが挫折するが、最後はΣで一緒に なったりするのである。そして、2人はシグマワークステーションを使って問 題解決に立ち向かっていくし、その他の登場人物も同じようにシグマを使って ビジネス上の課題を解決していくようになるという、ハッピーエンドのストー リーである。

マンガの内容はともかく、ソフトウェアの開発効率を上げるために、企業間の 垣根を取り除くことが重要で、メーカーからユーザまで幅広く手を取り合い、 今で言うところのオープンソース的な思想で今後は開発しなくてはならないと いうようなことが書いてある。

そして、企業間の垣根を取り除くためには、通信が非常に大切で、コンピュー タの相互接続性が書かれているだけではなく、技術者同士が企業の垣根を越え てメールや掲示板を利用して情報交換できることが必要なんだと書かれている。

というわけで、ここに書かれていることは、今でもそのまま十分に通用する内 容がほとんどである。開発は、結局は人に依存するのは今も変らない。

さて、Σプロジェクトは、多くの人が知っているように、スタート直後からほ とんど転けていた。その理由は、このマンガに描かれたようなことは実際は行 われていず、思いっ切り古い考え方で行われたからであろう。企業の駆け引き、 技術進歩を無視した計画、必要以上の大風呂敷、そして優秀な技術者からそっ ぽを向かれたことなどが合わさって、ほぼ完璧と言える失敗をしてしまった。

このマンガで描かれていたこと、理想とされていたことは、Σによって踏み躙 られたが、その後のインターネットの普及により、かなり解決された部分、あ るいは現在解決に向かって動いていると思われる部分が多い。

なお、この本には、昭和62年9月1日現在の、シグマシステムの委員会の名 簿が2ページにわたり掲載されている。無くなった会社、統合されたり、社名 が変った会社も多数ある。そのままスキャンして載せたいところだが、不都合 な人があまりにも多そうなので、やめておく。

巻末には、私も使ったことのある、Σ対応ワークステーション『Mr』SX-9100 の宣伝も入っている。このマシンが、なぜかゴロゴロ入ってきて、使用ではなく、 試用という感じで渡され使っていた。しかし、OSはΣにしなかったような気が するが、遠い昔のことでよく覚えていない。

この本が出された昭和62年頃を境に、Σが誰の目にも分かるくらいはっきり と下降しだしたように覚えている。1985年に始まり、1990年に株式会 社になり、さらに5年延命され、絶命したのである。

2003年6月18日

※定価は、Σに関わり、本書にも登場した三田電気さんの方より教えていただ きました。

【補足】実際のΣプロジェクトは、本書に書かれたようには進まず、当初から 難航していた。一番大きいのは、当時のUnixの第一線技術者達と意見が合わず、 結局はマンガの内容とは違い、大企業論理やお役所論理で進んでしまったこと であろう。本書は、それらのカモフラージュを意図したものと思われる。


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