読書感想文コンピュータ編その他(トラブル本)
書名オープンソースソフトウェア
著者クリス・ディボナ、サム・オックマン、マーク・ストーン
訳者倉骨彰
発行日1999年7月24日
発行元株式会社オライリー・ジャパン
頁数四六版、494頁
定価1900円(本体)
ISBN4-900900-95-8

このところ、非日本的な開発手法というか、囲い込みとはまったく正反対の ソースプログラムを公開することが流行っている、といってもまだまだごく一部 についての話だが。

それより、Linuxという言葉が飛び交って、それも学生が開発したものがど うも非常に注目に値するそうだとの認識を世間も持ち始め、それかオープンソー スという方法で開発されたらしい、というので日本でもこの分野が注目を集め だした昨今である。

となると、日本人というのは、流行に遅れまいと焦る国民性のため、オープ ンソースとは何かと勉強したがるのである。そういう時に、タイミング良く出 されたのが本書である。だから、良く売れているようである。出版社のビジネ スとしては理想的に正しい。

さて、本書は、オープンソースを今日まで引っ張ってきた著名人たちに論文、 レポート、あるいはエッセイを書いてもらって集めたものである。特に、誰に 何を書いてもらおうというより、ほぼ勝手に書いてもらったということなんだ ろうと思う。そういう意味で、とくに関係のない17の記事というかレポートが 並んだだけの本という感じにしあがっている。この業界で特別に癖のあるよう な連中の書いたものの集合体なので、きわめて分裂気味の本に仕上がったよう だ。

さて、重要なことは、この本でオープンソースソフトウェアを勉強しようと いう真面目な日本人にとって本書は役立つのだろうかという点である。結論か らいうと、本書でオープンソースを勉強しようという者には本書は極めて難解 でちんぷんかんぷんではないかと思う。雰囲気でも分かってもらえれば良いの かなと思う程度である。逆に、既にオープンソースソフトウェアを日常的に利 用している人にとっては、それほど新しい話がある訳ではない。

と思っていたら、うがった見方をされた方がいた。なあに、分かる必要はな いのである。日本の企業では、新しいものが流行ったら、まず書店に行って関 連書籍をとにかく買って、読まされる新人とか部下がいて、部下は調べては上 司に報告しなければならないが。部下が分からないまま説明しているにも関わ らず、上司は「うむ、分かった」とか言うに決まっているから、こういう本が 売れるんだよ、ということであった。当たっているかな。こういうときに、一 言突っ込みを入れるような上司は滅多にいないらしい。万一間違っていたら恥 ずかしい思いをしなければならないからだろうか。

ところで、本書の一番価値あるところは、付録の部分であろう。付録Aは、 Linuxを作り始めたLinusさんと、OSの大御所Tanenbaum教授とのネットニュー ス上での論争である。当時はマイクロカーネルこそが今後のOSのあるべき姿で あり、モノシリックなLinuxを作るなんてLinusは狂っている、という議論なん だが、さてマイクロカーネルはいったいどうなったんでしょうねぇ。

それから、巻末に、このオープンソースソフトウェア業界の著名人のプロフィー ルと顔写真が載っていて、これは参考になるかな。立ち読みでもいいから、こ こはぱらぱらっと見るとよい。一番貫禄のあるのは、やはりストールマンかな。

山形氏の「 わたくし、倉骨訳『オープンソース・ソフトウェア』の翻訳を深く憂慮するもので ございます」もご参考に。

1999年9月19日


読書感想文コンピュータ編その他(トラブル本)