『Cプログラミング診断室』目次次(開院準備・隠すことについて)

開院準備  ■情報集め


プログラムを作るためには、多数の情報を集めなければなりません。的確な 情報を、他社より早く入手し、世の流れに乗ること、あるいは時代に遅れない ことは絶対に必要です。

では、情報集めはどうすればよいでしょうか。本、雑誌、新聞などに頼るこ とはもちろん必要ですが、それだけで十分でしょうか。実際には、そのような マスコミの媒体に掲載される前に、第一線の技術者の間では衆知の事実と言う ことがよくあります。それどころか、第一線の技術者たちの中には、マスコミ 媒体に記事を書いたり情報を提供している人達が大勢います。彼らは、いった いどこから情報を得るのでしょうか。

今はコンピュータを使った情報通信が非常に発達しています。その一つがパ ソコン通信です。その他にもさまざまな通信手段が全世界的に張り巡らされて おり、短時間の間に情報が全世界を駆け巡ってしまいます。電子メールを使え ば、国内はもちろん、海外までも短時間の間に情報が届いてしまいます。また、 電子掲示板を読んだり、あるいはもっと積極的に自分の意見や聞きたいことを 書き込むと、いろいろ答えてくれる人がいます。このようなコンピュータ通信 を利用すると、非常に早期に情報を入手できます。

もう一つの効果的な情報入手手段は、コンピュータによるネットワークでは なく、「人のネットワーク」です。コンピュータを良く知っている友人、知人 をできるだけ沢山持つことです。直接会って話すことにより、こちらの疑問に 的確にこたえてくれたり、一般には公開されていない情報をこっそり教えてく れたりします。

そういえば、もうずいぶん前のことですが、80186-3というCPUを使ったパソ コンを販売していたメーカがありました。「-3」がついているのを不思議に思 うでしょう。この余分なものは要するにCPUのバグで、本来の80186としては動 作しないこと、とくに数値演算プロセッサ8087が使えないバージョンで、正式 の80186と交換しなければいけなかったのです。ここまでは、正式バージョン ができる前にサンプルを入手してテストする場合にはよくある話です。

けっこう仲間うちではこのパソコンを使ったりしていたものがいたので、そ のような事情は仲間達から聞いていました。一部の仲間のところには、メーカ から無償で正常なCPUが送られてきていました。また、そのCPUの輸入代理店か らも情報が入っていました。それで、私も、「このCPU不良だから交換して」 とメーカに言ったら、メーカの人に、「どうしてそんなに詳しいことまで知っ ているのだ。知り過ぎだ。どこからそのような情報を入手したのだ」と詰問さ れてしまいました。十数年コンピュータの世界にいますが、バカな対応をする 人はいっぱいいましたが、こんなにふざけた対応をされたことはありませんで した。後日、簡単すぎる謝罪文と共に正常なCPUが送られてきました。

その少し後で、そのパソコンが東京大学に大量に納められることに決まり、 仲間のいる学科にもまとめて入ることになりました。色々な縁があって、それ を手伝う(手伝わされる?)はめになり、そのメーカがどのように納入するか 見守っていました。技術計算を頻繁に行なうため、数値演算プロセッサ8087は 必須だったので、そのままではCPUの交換が必要でした。すると、CPUだけ正常 品に無償交換されており、なおかつその事実も知らされない、つまり最初から 正常品が納入されたことにされていて、みんなでびっくりしました。

もうひとつの話です。Xウィンドウは一般ユーザが使用する場合、Open WindowsとMotifの2つがあり、互いに張り合っていて、どちらを使うか迷って いたユーザがいっぱいいました。最近、主要メーカ間で、Motifに一本化する ことに話がまとまりました…ということになっています。しかし、これも遥か 前から衆知の事実として知られており、発表の日時がいつになるのかだけが時々 話題になっていました。

ところで、世の中には記者会見で発表され、新聞に取り上げられるまで知ら なかった人達がいっぱいいたのです。まあ、そのくらいなら、「バカですね、 無知ですね」で済ませられますが、そうなることを知らず、OpenWindows対応 のソフトをせっせと開発し、発表しようと準備していた会社もあったのです。 もう、情報音痴というか、救い難いですね。UNIX上のウィンドウは必ずMotif に対応させなさいと前々から教えていたのに、教えを守らずあわてふためいて いる会社もあります。情報処理の仕事をしていながら、一番重要な情報の処理 ができていないところも結構あるようです。

地方には、なかなか正しい情報が伝わらず、変なコンピュータを買わされた りして後で困っているところが多いようです。地方の公立短期大学や公立高校 などでは、公立であるがゆえに入札でしか決定できないため、変なパソコンを 安価に大量導入したのはいいけれど、ソフトウェアがないので教育が破綻して いるところもあるようです。担当者がきちんと調べて、ダメなものはダメだと 言わなかったのがいけないのですが、そこまで彼らに求めるのは無理でしょう。 入札の前に、ダメなものはダメと排除しなければいけないのですが、入札金額 だけですべてが決定されてしまうような方式をとっているところは、今後もメー カにだまし続けられることでしょう。コンピュータを導入し、成功していると ころを何個所か訪問し、自分のところとの相違を考えた上で決定すれば大きな 間違いはしないでしょう。

とにかく、プログラム以前の、コンピュータに関する情報の収拾および処理 に問題があるところが多く、困ったものです。

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