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第12章 芸術的字下げ

安物買い


バブル経済が破綻し、ほとんどの産業が不況になってしまったようです。無茶苦茶な論理の上に 成り立っていたので当然の結果ですが、その影響はソフトウェア業界も被っています。

ソフトウェア開発費は固定費として、製品化以前の段階で発生します。経営者や営業などは、何 も成果物がないのに、金ばかりかかって困ったものだと思うのです。彼らの中には、技術者は機械 と同じで、いつでも交換可能だし、補充も求人広告ですぐにできると思っている輩がいっぱいいま す。当然、彼らにとっては、技術者の能力差とか、向き不向きなどに注意はいきませんから、何か というと、「おたくの人月単価は高い」という話になってしまいます。

こういう論理ですから、当然給与の少なくて済む若年層が都合良く、退職金を支払わなければな らないほど会社に滞留してくれては経営論理上困るのです。大手のソフトハウスで、ワープロくら いしか使ったことがない人が入社の面接に行くと、次の日から、何と「プログラマ」として出向さ せられるなんてことがあるのです。真面目な人間は恐くてすぐに退社するのですが、無能な人間は そのままプログラマとして出向するわけです。どうせ出向先の会社なんてコンピュータを知らない のだから、優秀な技術者を派遣したらもったいないという論理です。相手の会社も、「こういう人 をプログラマと呼ぶのか」と訳も分からないまま納得してしまうのです。

さて、この不況時、経費削減のため、できるだけ「安いプログラマ」が求められています。開発 総費用が安いのではないのです。それは、開発はいつまでもバージョンアップやバグ取りが続き、 追加発注の連続で、当初の計画通りに開発が進んだことなど皆無といえる歴史的事実があるため、 安い人材を求めることによるのです。

不況の時はそのような「安物プログラマ」の作ったソフトウェアが氾濫します。もちろん、安物 プログラマの作ったものは「安物プログラム」で、不安定な動きをし、永久にバグを抱えてしまう ことでしょう。

日用雑貨なら、たとえ安物を買っても、生活がすぐに破綻してしまうことは少ないでしょう。し かし、安物プログラマは困ります。プログラムの機能向上など頼んだら、今まで完璧に動作してい た部分にまでどんどんバグを入れてくれます。後で、ちゃんとしたプログラマが全部見直し、膨大 な量の修正が必要になります。つまり、働いてくれた分だけ、他のベテランが「しりぬぐい」をす るハメになります。しりぬぐいされていれば極めて良いほうで、そのまま使用されている安物ソフ トウェアも多いはずです。OSなどは、それなりに厳しくチェックされているのですが、コンピュー タがあらゆる分野に進出するにつれて、人命に関わるようなアプリケーションソフトウェアも非常 に増えてきた現在、そのような分野でも「安物プログラマ」が幅をきかせるようになっているのは 当然です。

優秀なプログラマの単価は、安者の2倍も3倍もしますが、コンピュータシステムの全体的効率、 将来の機能拡張、機種に依存しない設計をしてくれる上に、最新技術の紹介までしてくれ、かつ極 めてバグの少ないソフトウェアを、少数精鋭で開発してくれることを考えると、発注者にとっては 最高でしょう。総費用も、当然そういうところに頼むほうが安くなります。

安物プログラマを買ってパニックに堕ちいる発注者が発生し、優秀なプログラマのいる会社にS OSがかかってくるのは、いつになったらなくなるのでしょう。


Copyright1996 Hirofumi Fujiwara. No reproduction or republication without written permission
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