目次次「下手糞なプログラム」 English

ま え が き


本書は、コンピュータ世界の実態を、コンピュータ技術者はもとより、コン ピュータ技術者を使用する立場の人や企業のトップまで含め、あらゆる分野の 人々に、コンピュータ技術を知らなくても分かるように解説する。コンピュー タ産業、ソフトウェア産業といえば、先端産業と認識されているだろうが、そ の実態は醜悪である。その醜悪ぶりを、技術者の側から、経営者の側に直訴の 形でお目にかける。

私自身は長年ソフトウェア技術者をやっているが、コンピュータ技術者を擁 護する気などさらならない。無能な技術者は、社会のためにも、本人のために も速く引退させたい。そうしないと、会社にも大変な不利益がある。

非コンピュータ技術者(一般人)にとっては、コンピュータは全く得体の知 れない怪物であるが、これを利用しなければ、すでに人間のあらゆる活動が成 り立たないのは誰も否定できない。そして、一般人にとって、コンピュータと は驚異的な近代科学の産物であり、それを自由に操れるコンピュータ技術者は 畏敬の対象であるらしい。

コンピュータ産業、とりわけソフトウェア産業の比重は急激に増え、そこで 働く人々も大きな勢力となってきた。もはや、巨大産業である。しかし、その 産業界の実態はとんでもない。時々新聞紙面を賑わせるような事件が発覚して いるが、それらは、この社会の持っている問題の表面化した部分のほんの一端 に過ぎない。そんな切れ端ばかりを見ていたのでは、本質を見失ってしまう。

コンピュータの技術的情報関連の書は、もう書店に並び切らないほど出版さ れ、選択に困るであろう。しかし、コンピュータ社会を担っているプログラマ 社会の本質や問題点を捕らえたものは残念ながら皆無に近い。これに言及する ことはタブーであり、コンピュータ業界内部の人間がやることではない。たと え出版されていても、それらはコンピュータを使いこなせない評論家がコンピュー タ産業について御託を並べているものが殆どである。

私は現役のコンピュータ技術者であり、今でも相当量のプログラムを開発し 続けている。また、好運なことに、仲間には多くの優秀なコンピュータ技術者 がいる。仕事も大手企業のプログラム開発などを中心にやってきたので、幸か 不幸か裏側の世界を見過ぎてしまった。ただ、裏側というのは、より本質的な ものが含まれており、もっとも研究に値する。

本書では、コンピュータ技術者あるいはコンピュータ会社という、人間ある いは会社の内部を、内部にいるコンピュータ技術者から見て解説する。コンピュー タの技術的な説明は省き、毎日コンピュータ社会で起きている馬鹿げた、呆れ 果てるような事実を書く。それらが自分に全然関係ないうちは、興味を引く三 面記事か非常に楽しい漫才か落語の印象を受けるであろうが、それらの話と同 様のことが自分の会社でも発生していることを知ると、恐怖の戦慄が走るであ ろう。

こういう書き方をすると、コンピュータ社会の内部を暴露するように受けと る人も多いであろう。だが、私の本意はそうではない。コンピュータ社会を正 しく、有りのままに解釈し、正しく評価をしてもらいたい。まだまだ歴史も浅 いひよっこの産業であるから、問題が山積していて当り前。社会全体がコンピュー タ社会を正しく理解し、翻弄されることがなくなることが、ひいてはコンピュー タ社会の真の発展になる。出すべき膿は、さっさと出してしまうに限る。

ただ楽しいだけの本、あるいは恐怖を体験させるだけの本では読者に申し訳 がない。会社経営にとって重要な状況を、できるだけ忠実に再現しながら並べ ている。多くの企業で、億単位の金がまったく無駄に使われ続けている。研究 開発に失敗したと言うのではない。失敗が初めから分かっていて失敗したもの が実に多い。さらに、失敗を隠すために使われたものも多い。本書では、それ らの実態に基づいて、コンピュータ技術者、ソフトウェア外注会社やプログラ マ派遣会社などのあり方についても私感を加えた。

本書は、著者の積年のうっぷんを晴らし、読者の覗き見精神を満足させ、話 の種を提供することは確かである。しかし、それで終わってもらっては困る。 本書の意図は、あくまでもコンピュータ社会の現実を知ってもらうために、私 の周囲で起きたエピソードを綴った。許される限り正確に、もしかすると許さ れない程度にまで正確に書いてしまったかも知れない。

本書は、以上の主旨に従って書いているので、多くの人を憤怒させるかも知 れないと危惧している。ただ、個人攻撃などする気は毛頭ない。そのため、個 人名と私企業の名前は伏せた。また、製品などの説明も必要以上にすると企業 名を特定できてしまうので、伏せた。内容は、あくまでも忠実に再現し、本当 のことしか書いていない。本当のことでないのは伏せ字の部分だけである。

本書により、不快な思いをしたり、傷ついた人が出れば、一切私の責任であ る。それは、私の真意が十分に伝わらなかった、伝える努力が足りなかった、 伝えるだけの能力に欠けていたからだ。

ここに書いていることを、馬鹿げた話、戯言と思って読むのは読者の自由で ある。だが、本当のことを書いたに過ぎない。こういうことを書くのは大人げ ないとか、良識がないとか言うであろう。だが、私は書かれることが許される のが当然であり、それが本当の良識だと思う。そうあってこそ高い文化と言え よう。

本書を読んで反発を覚えたり、怒った人、どうかお手紙を下さい。もし私の 考えが間違っているならば、どこが間違っているか教えていただければ幸甚で す。

1995年6月 藤原博文


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