目次次「プログラムは隠せ」 English

理解力


もう15年くらい前になるが、当時私は小さなソフトハウスに勤めていた。 主に研究開発関係のソフトを受託していた。そこで、某学会が最先端技術であ る3次元のCADを開発することになり、東京大学のある研究室でその開発を 行なうことになった。その研究室の助教授が、その分野の世界的研究者である ので、そう決まったのであろう。それで、コンピュータ技術者を募集し、私の いた会社が受注し、私を含めて若干名が東京大学に常駐することになった。

普通、零細なソフト会社にそんな開発の依頼は来ないのであるが、営業が通 産省の研究所のアルバイトをよくやっていたというコネで来たのだ。また、そ の助教授は、通産省の研究所が筑波に移る時に逃げだし、東大の助教授になっ たのである。

プログラムは、当時としては相当面倒で、かつ大きなプログラムの開発であっ た。数学的な素養も必要だし、使用しているコンピュータがアメリカ製で、説 明書は全部英語で、それらも読まざるを得なかった。ただ、大学ということで、 労働時間はかなり目茶苦茶で、適当な時間に行って適当に帰るという具合であっ た。

終わりの頃は、私ともう一名で出向していたが、仕事以外といってもコンピュー タのことであるが、当時発売開始になったばかりのポケットコンピュータ(ポ ケコン)の内部解析に勤しんでいた。まあ、コンピュータ気違い(ハッカー) の鏡のような活動であるが、なんと先生までがそれに興味を示してしまった。 このときの研究は、その後、膨大な量のポケットコンピュータの出版物となっ て実を結んだ。また、これを契機に、メーカーもポケットコンピュータの詳細 な情報を公開するようになった。

ところで、開発すべき3次元CADのプログラムは面倒であり、膨大な量の プログラムを書かなければならなかった。また、非常に優秀な人に有りがちな ことであるが、関係者は皆優秀であると仮定してか、渡された資料は分かる人 には分かるように書かれていた。まあ、世界中の論文とかばかりを毎日見て暮 らしていれば、そうなるのは自然の成り行きとは思ったが、まあ、理解不能の ことは、ちょっと調べて駄目なら聞けばいいや、というふうにした。何せ相手 は人に教えるのが仕事の人達だから。

まあ、そんなこんなで我々は仕事をしていたのであるが、それでもなかなか 仕事が進まない。大学の学生や院生に作業をやらせるにも限度があるので、別 の会社に人を派遣するように頼んだのである。別の会社は、我々の会社の約半 額で人を派遣することで話がついたらしい。そして、実際にコンピュータ技術 者がやってきた。

だが、こいつに仕事の内容を説明してもてんで理解できなかったそうだ。そ れで、辞めてもらいたいところであるが、まあ適当な仕事を与えなければとい う親心で、関連書類の整理などをやらせようとしたら、
「私はコンピュータ技術者で、こんな仕事をするために来たのではない」
とホザいたそうである。まあ、無能な奴に限って、こういう暴言を吐くのである。

そして、その技術者という奴は、逃亡してしまった。そやつの会社の営業、 これはまさに軍隊式の挨拶をしていたのであるが、
「残務はきっちりやらせます」
と言い放ったにもかかわらず、逃亡者は帰ってこなかった。まあ、関係者は、
「もう絶対にあんな会社に頼むものか」
と思ったことであろう。

一時、別の会社が安い金額で仕事を引き受けるので、我々の会社でももっと 安くできないかと言われた由を営業から聞いたが、そのような事件があり、そ ういう相談は一切なくなった。ずっと開発終了まで居すわってくれるようにと 要請されるようになった。

開発途中で、親会社の仕事が急激に忙しくなり、そちらの手助けをのため、 この開発からは手を引いたが、未だに技術の最高責任者であった助教授(現在 は教授)とは往き来しているし、当時まだ学生や院生だった人達なども、次々 と助教授などになり、今も親しく付き合っている次第である。

行っていた時に、生協を利用することが多かったので、生協の組合員にもなっ た。組合員証を見ると、教職員用で、無期限になっていた。今のところ、住み かも近いので、時々は書籍部に行って、割り引きで本を買っている。

要するに、この仕事で重要だったのは、「理解できる」ということであった。 何時間働くかということより、理解の問題が最重要だった。というより、どん な仕事でも、まず作業内容を理解できなければ、いったい何をすべきか分から ず、何もできない。これは極めて当り前のことであるが、こういうことを評価 できる人間は実際少ない。


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