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ネクタイで評価


コンピュータ技術者の社会といっても、やはり一般ビジネスマンの社会と何 ら変わらない。コンピュータ技術者も、人と会う時は、良いスーツを着て、き ちんとネクタイを締めていないと評価されない。相手の会社を訪れるとき、変 な恰好だと受付にいやな顔をされる。下手すりゃガードマンが飛んでくるであ ろう。

とにかく、会社の最初の関門で、服装がチェックされるのだ。コンピュータ のことが分からないので、いかにも真面目なサラリーマンという様子かどうか で相手を判断するのであろう。もちろん、一般人にコンピュータ技術者の能力 を判定するのは、最初は難しい。だから、スーツとか、ネクタイとかの外観で 判断するのだろう。私の多くの仲間のように、普段は絶対にノーネクタイどこ ろか、GパンにTシャツが会社での正装と思い込んでいるような人間は、理解 不能の人間と烙印を押されるようである。

技術的に高度なと言われている雑誌に、技術解説の連載をしている女性コン ピュータ技術者が仲間にいる。彼女は超一流大学の大学院を出て、今の会社に 入社する時に、親から、
「会社に入るのだから、ちゃんとした服装を用意するように」
と言われたそうだ。親の方が、就職祝いにスーツでも買おうと楽しみにして いたのかも知れなかった。でも、そういう会社に入社する訳ではないので、何 も特別な服は用意せずに、学生の時と同じ状態で会社へやってきた。私達もそ ういう彼女を歓迎した。もちろん、彼女の実力は超一流であったことは、いっ しょに仕事をして良く分かった。とても彼女には太刀打ちできない、と思う毎 日であった。

その会社には、他の会社から技術者がしばしば派遣されてくる。こういう時、 最初の日だけはちゃんとした服装で訪れる。ある大企業から来たプログラマは、 2日目から後は、毎日擦り切れたGパンをはいてきて、大学生そのもののよう であった。私などは、それでも全然気にはならないのだが、一般にはそうでは ないらしい。

コンピュータ・ショウがある時、きちんとしたスーツを着て、いかにも立派 な会社の、立派な社員であるというふうな人は、役職はどうであれ、技術的に はどうでもない人が殆どである。コンピュータ・ショウに、汚ない服装で駆け つけてくる連中の中にこそ恐ろしいくらいコンピュータに詳しい奴がいる。ま あ、ショウで説明する側も、スーツを着ている客からは、しっかり金を取るこ とだけを考える。

しかし、Tシャツでやってくるような連中は要注意である。営業部の人間で は絶対答えられないような技術的なことを根掘り葉掘り聞いてくる。彼らは、 たとえ会社は違っていても、コンピュータネットワーク(インターネットなど) を通じてしきりに情報交換しており、いい加減な対応をすると、痛い目にあっ てしまう。

「あの製品にはこんな欠陥があって、とても使えたものではない」
というような情報が、日本はおろか全世界にまで一瞬で流れてしまうのであ る。こういうのが俗に言うハッカーである。

ハッカーというと犯罪者のイメージが一般にはある。しかし、元々ハッカー には「コンピュータ犯罪者」なんて意味はどこにもなかった。コンピュータを こよなく愛し、コンピュータを可愛がる人間のことである。非常におとなしく、 お人好しが殆どである。

ハッカーをコンピュータ犯罪者に仕立上げたのは、マスコミの犯罪である。

コンピュータ技術者を評価するのに、ネクタイやスーツに何の価値があるの か、私には全然分からない。実際の作業の結果を見て、それで評価をすればよ いと思うのだが、まず人の評価の最初の「ふるい」がネクタイやスーツなので ある。これが社会人としての最低のマナーであり、義務らしい。

つまり、ネクタイやスーツの件をパスしなければ、コンピュータ技術者とし ての評価にも値しないということらしい。逆に言えば、どんなに馬鹿なプログ ラムしか作れない、いない方が役に立つ人でも、GパンやTシャツで仕事をす る優秀な技術者よりも価値があるということである。まったく無茶苦茶と思う が、外注を使う会社のほとんど全てはその程度の知識レベルでしかない。これ ではアメリカに馬鹿にされて当然である。

そもそも、ネクタイなどをしていて、ちゃんとしたプログラムが作れるのだ ろうか。プログラムを開発する時は、できるだけ柔軟な発想ができるような状 態でなければいけない。窮屈な状態では、色々なミスが出てしまい、プログラ ムは目茶苦茶になる。

まあ、ネクタイをすれば、良いプログラムができるようなら、私だって一度 に2本でも3本でもネクタイを締めよう。もし、ネクタイやスーツがプログラ ムを作るのなら、会社で一流のスーツを用意してやればよい。英國屋に注文す ればよい。でも、こんなことをすれば、窮屈になって、プログラム開発どころ ではなくなるだろう。

でも、立派なオフィスで、立派な応接室に通され、きちんとしたスーツをし た人が出てきて説明をすると人は信じるのである。そして、安心して、その会 社の製品を購入したり、仕事を依頼するのである。相手がどれだけの能力があ るかを判断しているのでは決してないのだ。まだまだ豊田商事の教訓は生かさ れていない。

インターンシップ体験記


Copyright1996 Hirofumi Fujiwara. No reproduction or republication without written permission
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