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なまものなのでお早めに


コンピュータの進歩は急激である。どのくらい急激かを、私がコンピュータ を始めた頃と今(1995年)とで比べてみよう。1980年頃の技術計算用 の最先端コンピュータは、DEC社のVAX−11/780というコンピュー タであった。これは当時、約1億円であった。

コンピュータの性能を測定する単位としてMIPS(ミップス)というのが あるが、このVAXがちょうど1だったので、MIPSという単位の代わりに、 VAXという単位が使われることも良くあった。MIPSという単位は、百万 分の1秒間に何回計算ができるかを示す。

1995年では、どんな貧相なパソコンでもVAXよりも遥かに高性能であ る。今では、50MIPS以上の性能のコンピュータが30万円程度で入手で きる。大ざっぱに言って、1MIPS当たり5000円程度である。これは、 15年間で、2万倍の差が出てしまったことになる。毎年、1MIPS当たり の価格が半減していったのである。

逆に言えば、15年前に使っていた1億円のVAXは、せいぜい5000円 の価値しかない。はっきりいって「ゴミ」である。

私は、一時、東京大学でVAXを使っていた。研究室で1台のVAXを占有 するなんて、とんでもなくゴージャスなことであった。そのVAXで何をやっ ていたかなど問題ではない。VAXを使っているということが研究者の「ステ イタス・シンボル」だった。

しかし、コンピュータの進歩は、価値を毎年半減してしまう。この、あこが れのVAXも研究室の邪魔者になってしまった。図体はでかいし、捨てるため にも業者を頼まなければならない。捨てる費用も馬鹿にならない。金を出すか ら、誰か引きとるものはいないかと捜していた。

そうすると、既にVAXを持っていた会社で、もう1台欲しいという奇特な ことをいうところが現われて、100万円で引きとってくれた。もう、嬉しく て、嬉しくて、というところであった。

急激な円高ドル安といっても、コンピュータの世界と比べれば微々たるもの だ。コンピュータ並みに円高ドル安が進んでいたら、今や1ドルは1銭以下で ある。毎週毎週暴落が起きているようなものである。ブラックマンディは例年、 春と秋の新製品発表のころに必ず発生する。

これだけ変化が激しいのだから、3年も経ったら、保守費用を払ってまでコ ンピュータを直すことはしない方が良い。同程度以上のコンピュータが、保守 費用で十分買えてしまうのだ。何年か経ってからの修理など、考えるだけ馬鹿 げたことになる。

5年もかけてリースなどしたら、リース期間の半分は、実質的には廃棄して いるにもかかわらず、お金は払い続けることになる。もちろん業務は続けなけ ればならないので、リース期間の途中で、新しいコンピュータも導入すること になる。

コンピュータを重要な長期的資産と考える税制は全く現状に合っていない。 コンピュータは、ほんの2、3年で老朽化してしまう。今や価格もどんどん安 くなってきたので、なんとかして消耗品として計上すべきである。

これだけ激しい値崩れが延々と続くのであるから、コンピュータの導入をど うするかは難しい。年度計画の中で予算化しようとすると、資料を集め比較検 討し、価格交渉をし、書類を作り、根回しをする必要がある。それには時間が かかる。普通は何ヵ月もかかるであろう。

しかし、激しい技術革新のお蔭で、集めた情報を評価している間に情報はど んどん腐っていく。単行本の原稿を書き、書店に並べ終えた時には、もう十分 腐っている。新製品、価格、性能などの情報は一番腐り易い。雑誌ですら遅い。 コンピュータの専門家でも、直接関係のない分野は殆どついていけない。

まるで生鮮食品である。常に賞味期間を表示していなければならない。それ でも、急に新製品が出て、全く状況が変わってしまうことも頻繁に起きる。

コンピュータを相手にする時、「1年すれば価値は半減」ということは頭に たたき込んでおかなければならない。じっくり交渉して、しっかり値切っても、 そんなのは大した意味はない。新製品が、値切っている間に旧製品になってし まい、在庫処分の対象になっていることは普通である。

私は、色々な情報を求められた時、最後に、
「この情報は、せいぜい3ヶ月しか有効期限はありません」
と常に付け加えることにしている。こちらが提供した資料がいくら優れてい ても、それに従ってすぐに行動を取ってくれなければ、その効果はまったく保 障できなくなる。それどころか、最悪の買物をすることも考えられる。


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