目次次「設計環境」

ブランド指向


ブランド物のファッション小物を買いあさる女性陣を笑ってはいけない。コンピュータ を購入する時、ブランド志向が強くないだろうか。

何度も書いているが、コンピュータの性能アップは急速だ。大ざっぱにいって、毎年性 能は2倍になっている。これは経営努力などで達成されたものではなく、絶え間ない技術 革新のためである。だから、コンピュータ社会は、新技術を身につけた会社が急激に伸び、 ついていけなくなった会社が没落していく。他の産業界でもそういうことがあるが、コン ピュータ社会では著しい。どんなコンピュータ会社でも、5年先も同じ状態でいられるか 分かったものではない。とにかく浮沈が激しいのだ。

ビッグ・ブルーと言われる世界最大のコンピュータ・メーカーがある。昔のコンピュー タ・メーカーは主力は大型コンピュータばかりで、販売先も大企業や政府関連ばかりであっ た。

大企業において、大型コンピュータの購入は重大な問題であった。金額的にも相当額に なる。購入して動きませんでしたでは済まない。購入責任者にとっては、頭の痛い問題で あったろう。

こういうとき、ビッグ・ブルーの営業は、
「うちのコンピュータを導入すれば、たとえ失敗しても大丈夫です。他社のを導入して 失敗すると、責任問題になります。当社のを導入すれば、たとえ失敗しても仕方がなかっ た、と判断されます」
と言って回ったそうだ。私が直接聞いた訳ではないので、真偽のほどはよく分からない が、ありそうな話である。

昔は、世界のコンピュータ会社は、ビッグ・ブルーと反ビッグ・ブルーの戦いであった。 ビッグ・ブルーは圧倒的に強かった。殆ど神格化されていたので、ビッグ・ブルーのコン ピュータで上手く行かなかったのなら、もう責任者の問題ではない、と思わせる風潮があっ たのは確かである。性能などを比較させるのではなく、「ブランド」そのものを売ってい たのである。

日本には、企業グループという非常に強い結束がある。こういう企業になると、社内で 使う物は、全部自社製品もしくはグループ内の会社の製品に限定してしまうことがある。

巨大企業グループになれば、下請け、関連企業などを含めれば、もうそれだけで十分巨 大な市場になってしまい、特別な営業活動もせず、その閉ざされた世界にだけ売り続ける ことを考えることがある。こういう企業の場合、コンピュータも例外にはならない。そこ から不運が始まったりする。

私が作ったパソコン用のソフトウェアを、そういう会社の工場が使いたくなった。私の 方は、普及率の高いパソコンにだけ対応していたので、その系列会社の出しているパソコ ンには全然対応していなかった。たとえ対応した商品を出しても、パソコンそのものが出 回っていないので、売れる筈がない。

他社のパソコンをこっそり購入し、それで動かしてしまえば、費用は殆どかからない。 工場として購入費用の工面を考えなくてはならないようなことはなかった。しかし、他社 のパソコンを購入するのは厳禁である。どうしても購入せざるを得ない場合には、相当の 理由が必要である。まして、系列会社が出しているパソコンと同程度の性能にもかかわら ず他社のを選択するのは絶対に許されない。ちょっと頭が堅過ぎると思うが、そういう法 律があるのだから仕方がない。

それで、系列会社が出しているパソコンで動くように改造してくれ、と言ってきた。こ ちらとしては、そうして作った物は、一般には売れる筈がないと思っている。その企業グ ループ内部でしか絶対に売れないと思うので、改造費用をそのまま見積額として提出した。 本来は、商品を1つ購入すれば良い筈だったのが、改造費用全額を載っけてしまったから、 金額が2桁ほど上昇してしまった。相手が納得できる筈がないと思った金額であったので、 やはり注文は来なかった。

この会社の製品について、もう1つ下らない話がある。

私は、よくあちこちの会社に居候する訳だが、その会社の中の使っていないコンピュー タ類を集めて、使えるように繋いでソフトウェア開発を行なったことがある。使われてい ないものということは、使うに値しないと判断されたのであり、部屋の隅に放置されてい た物だ。そんな物でも、一応こちらも技術者の端くれだから、適当に調整して利用可能な 状態にして使う。コンピュータ本体、ディスプレイ、プリンタそれぞれ適当に集めて使っ たのでメーカーはばらばらである。ソフトウェア開発に必要な残りの道具は直輸入で安く、 国内価格の2割程度で入手した。

開発は順調に進んだ。ある日、プリンタの印字が薄く読み難くなってきたので、プリン タリボンを取り替えたくなった。居候していた会社は秋葉原にあったので、秋葉原のメー カーのサービス・センターに電話で問い合わせた。
「プリンタ××のプリンタリボンはそちらにありますでしょうか」
でも、なかなか教えてくれない。それで、
「プリンタリボンの入手方法を教えてください」
と尋ねたが、まだ教えてくれない。しかたがないので、
「秋葉原で取り扱っている店を教えてください」
と尋ねても、さっぱり応答がない。
秋葉原のサービス・センターならば、たぶんサービス・センターの中では一番きちんと 答えられるだろうし、補充用品も完備していると考えるだろう。しかし、まったく要領を 得ない。間違って、電話の受付の人に質問をしているのではなく、サービス・センターの 係の人に話していてこれである。どうもこちらが電話をしているのが気に入らないらしい。 特別丁寧な言葉も使わなかったが、かといって、ぞんざいな言葉も、横柄な話し方をした 訳ではない。しかし、てんで話にならない。

こちらは、その会社の売っているプリンタを使い続けるために、補充用品を買いたいだ けである。もう売ってないなら売ってないで良い。どうせ千円かそこらの物だから、定価 で購入しても構わない。しかし、どうやっても情報が得られない。別の場所に電話すべき なら、その旨教えて欲しい。

そのうち、
「どうして何も分からないのですか。たかがプリンタの補充用品についての問い合わせ ですよ」
となり、最後は喧嘩になったように思う。

今まで、色々なコンピュータ・メーカーやパソコン・ショップに数え切れないほど問い 合わせをした筈だが、こんな対応は今まで一度しかない。だから、これは例外中の例外で ある。

何の情報も得られないので、もう使い物にならないプリンタリボンを外し、それと同じ 物を秋葉原の電気街を散策しながら捜すことにした。あまり売れていないプリンタなので、 殆どの店で分からない。何の用事もないのに散策する町であるから、何時間ぶらぶらして も苦にはならない。それで、どんどん尋ね歩いているうちに、あるパソコン・ショップで 貴重なことを教えてくれた。捜していたメーカーのではなく、別のメーカーの補充品がそっ くりである。それで、箱を開けてもらい、同一品であることを確認して購入して帰った。

プリンタのリボンは、プリンタを作っているメーカーではなく、インクリボン専業メー カーが各プリンターメーカーに納めるのが普通である。だから、こういうことは当然ある。

サービス・センターの対応があれでは、売れなくなって当然だ。今では、秋葉原のサー ビス・センターも閉鎖したようだ。同じ場所が、急成長のパソコン関連会社の東京ショー ルームになっていた。正しい自然淘汰の姿である。

友達の一人が、田舎にUターンして地元企業に就職している。彼はコンピュータ技術者 ではないが、その会社は仕事がらデータ処理量だけは多そうなところである。その会社で、 古くなったコンピュータをリプレースする時に、社長の一声で、別のメーカーの機種にし た。

このメーカーのコンピュータは、昔はオフィス分野では強力であったのだが、近年は泣 かず飛ばずの状態である。正気のコンピュータ技術者ならば、まず推薦することは有り得 ない。しかし、社長は買ってしまったのである。

当然、リプレースしてから問題はいっぱい出てきた。何年も使っていたコンピュータを 新しい物と入れ替えたのであるから、今までよりも処理時間が短くなり、快適にならなく てはならない。しかし、逆に、処理が遅くなってしまったのである。

まさか、メーカーが変わったからといって、コンピュータ自体の性能が前のコンピュー タよりも劣っているとはとても思えない。オフィス・コンピュータの場合、業務用ソフト ウェアもコンピュータを販売するところが用意するので、業務用ソフトウェアの作成に大 失敗をしたのであろう。

普及していないコンピュータの場合、そのコンピュータ用ソフトウェアを開発するプロ グラマの数も極端に少ない。当然のことながら、プログラマの質は劣悪となる。だから、 そういうコンピュータを買ってしまったら、こうなることは予想がつく。

社長としては、老舗を選んだつもりだろう。日本を代表するような企業ならばと思った のであろう。これが失敗の原因である。コンピュータの世界でのブランドが理解できずに、 企業としてのブランドに頼ってしまったのだ。

その後、老舗のコンピュータ導入が上手くいってないのを承知で、全社的に老舗のコン ピュータに切り換えたそうだ。その切り換えで、あらゆる業務が滞り、会社の利益は吹っ 飛び、全社員のボーナスはフイになった。

よくよく聞いてみると、社長の息子が老舗の営業をやっていて、息子の営業成績を上げ るため全社的に息子の勤める会社から使い物にならないコンピュータを買ったのであった。 ここまで来ると、親馬鹿の極致と言える。

実は、そのコンピュータを作っているメーカーの研究所に知り合いがいる。当然、自社 のコンピュータを使っていた。企業グループ内部でしか売れないようなコンピュータなの で、使い難くて仕方がない。いつも不平ばかり言っていた。

そのメーカーの方も、ついに技術計算用のコンピュータの自社生産を止めてしまい、他 社の作ったコンピュータに自社のマークを入れて売るようになった。OEMである。それ でも、一応は自社のコンピュータということになる。こういう時には、当然性能、使いや すさとか色々検討して良い物を選ぶ。さすが国内の競争相手からのを導入するのは止めて、 海外の有名コンピュータ・ブランドのを導入した。

これで、研究所でも、世界の標準的なコンピュータを堂々と使えるようになった。ひど いコンピュータのために出ていた障害は殆ど取り除かれたと言えよう。

最近の東南アジア諸国のコンピュータ産業の成長は著しい。円高が急激に進んだことも あり、日本のメーカーも次々に生産拠点をアジアに移している。設計は日本でしても、工 場を日本に置かないようになる恐れは少なくない。もう、コンピュータの生産で、日本は アジア第1位ではなくなった。そのうち上位にすら入れなくなるかも知れない。

パソコンの筐体を開けて中の装置を調べてみると、生産国として東南アジア諸国の名前 が目立つ。日本製のコンピュータでさえそういう状態である。最終的に組み合わせたのが 日本であっても、個々の部品は外国製が多い。もはや純国産のコンピュータとか、純米国 製のコンピュータなんて絶対に有り得ない。

コンピュータの世界でのブランドの意味は何なんだろう。まさか、老舗とは違う。せい ぜい流行くらいの意味しかない。

『プログラミング
Gauch』
O'Reilly Japan刊

鋭意作成中状況

出版記念
gauche.night

3/8(土)18:00〜
お台場
前売券:1500円
当日券:2000円

主催
オープンソース
Scheme言語処理系
Gaucheの愛好者団体

gauche.gong
出場者募集中

詳細はブログで


Copyright1996,1998 Hirofumi Fujiwara. No reproduction or republication without written permission
目次次「設計環境」