目次次「インターネットと企業淘汰」

インターネットとモラル


昨今は、インターネットという言葉が流行語だ。題名に「インターネット」が含まれて いれば、猫や杓子が本を買ってくれる。時代に取り残されまいとするビジネスマンが読む 訳だ。その前の流行語は「マルチメディア」だ。インターネットに押されているが、まだ 健在である。どちらの用語も、流行語としてもてはやされるばかりで、その意味は正当に 評価されていないようである。

「マルチメディア」は、文字通り訳せば、複数の媒体である。記憶媒体の種類が複数あ るよ、と言うだけに過ぎない。CD−ROMばかりが取り上げられているが、データを記 憶できるあらゆる物をまとめて「マルチメディア」と解釈しなければならない。まだ発明 されていないものも含まれる。記憶容量はどんどん増え、かつ小型で安価になるから、今 まで使うのを躊躇していた分野にも進出するだろう。本当のことを言えば、コンピュータ は初めからマルチメディアであった。つまり、使えそうな物はどんどん試してきた。一時 的に流行した物もあれば、長く使われ続けているもの、発売と同時に見捨てられた物もあ る。数十年の歴史の中で自然淘汰されてきた。今後も、突然変異が現われ、そして自然淘 汰が行なわれるであろう。

「インターネット」とは、会社や大学に個別に存在していたコンピュータ通信網を、相 互に接続して、日本はおろか全世界のコンピュータを1つの巨大なコンピュータ有機体と して使うことである。すごいことであるが、これは今の電話を考えれば分かり易いであろ う。今までのコンピュータは、同一組織内部で繋がっていたので、これは内線電話に相当 する。しかし、インターネットになると、別組織にも繋がる。これは、内線電話から、外 部へもかけられることに相当する。電話番号さえ知っていれば、全世界どこにでも簡単に 連絡がつくことである。昔は長距離電話は長時間待たされたが、今や国際電話もダイヤル 直通の時代だ。この電話網と同じような状態をコンピュータに対して実現しようというこ とがインターネットである。

しかし、まだインターネットは黎明期である。とくに日本はコンピュータ通信が遅れて いる。パソコン通信が始まるまでは、電話でコンピュータ同士を接続するためには、電電 公社に特別な申請をし、馬鹿高い料金を払っていた。

実は、その当時でも、普通の電話で通信できたのである。仲間の一人は、元いたお役所 との間で、勝手にコンピュータ通信のテストをしていた。15年も前に、普通の電話回線 を使って、今の高速通信並みの速さで送れたのである。凄いことと思うだろう。しかし、 当り前のことなんだ。この15年間で電話網も変わったが、その変化はそれほど劇的では ない。

ところで、勝手に電話回線でコンピュータ通信をするのは法律違反であった。理由は、 コンピュータ通信の、あのピーピーガーガーという耳障りな音は、人間には理解できない 「暗号」である。そして、電話回線では暗号は送ってはならないことになっている。故に、 電話を使ってコンピュータ通信をするのは法律違反ということである。

それなら、あのファックスは何だ、と思うのは私だけだろうか。あれもコンピュータ通 信と同様に、ピーピーガーガーの筈である。こちらのファックスに絵を入れると、絵が電 話線の中を通って相手のファックスから出てくる訳ではない。ピーピーガーガーという信 号になって相手に伝わり、相手のファックスがそれを解釈して紙に白黒の点で表示する。 だから、ファックスが良くて、コンピュータ通信が駄目というのは、役所の嫌がらせか、 国会議員の無知かが原因であろう。それとも利権だろうか。

コンピュータ通信の禁止は、全世界から馬鹿にされた。そして、日本のコンピュータ、 とくにソフトウェアの発展に大きな障害となり、その影響は今でも甚だしい。

日本では、インターネットはやっと商用に使っても良くなった。もっと分かりやすく言 えば、コンピュータが互いに繋がれていることを利用して、どんな商売をしても良くなっ た。法律に違反しなければ何をやっても良いのである。要するに、電話と同じように使っ て良いのである。そもそもインターネットの通信網の部分は電話網を利用するのだから、 同じになってやっと納得できる。

インターネットの利用は、まだまだこれからの問題である。インターネットを通じて様々 のデータを交換できる。ワープロなどで手紙を書き、相手に送ることは最も基本的な使い 方である。その応用としてDMもできる。テレビ・ショッピングみたいな買い物も可能だ。 予約もできるし、広告もできる。医療に使えば遠隔診断なども可能だ。大学まで行かなく てもレポートは提出できるし、その結果も家にいながらにして見れる。ゼミも、大学まで 行かず、家にいて参加することもできる。図書館まで行かず、通信を利用して本を読んだ り調べたりできる。新聞だって、貴重な地球資源を浪費しないで読者に届けることができ る。会社間の書類だって送れる。考えていけば切りがないので、この辺で止めておこう。

しかし、インターネットはまだ黎明期である。実際には、以上列挙したことは、今のと ころ殆どできない。コンピュータおよび通信の立場からすれば、技術的には可能であるが、 社会的な環境がまだ整備されていない。これから整備が始まっていく段階である。だから、 どこの大企業も何とか参入し、旨い汁を吸おうとしている。だから、インターネットとい う題名の本がビジネスマンに受け入れられるのである。

もし、一部の本に書かれているように、直ぐにでも役に立つことができると思って入っ てくると大失敗をする。本気で立ち上がるのは21世紀初頭になるだろう。今は、コンピュー タに一番近いところにいるプログラマでさえ、あまり使っていない。本当のことを言うと、 インターネットの本を書いている著者の中にも、日常的に使用していない者が多数いるよ うである。

インターネットにも、パソコン通信と同じで、自由に手紙(電子メール)を送ったり、 テーマ毎に誰でも参加できる掲示板(電子ニュース)があり、自由に読んだり書き込んだ りできる。実際の郵政省の郵便システムとか新聞配達システムとは異なり、たとえ遠く離 れても、地球の裏側でも、速やかに届いてしまう。極めて即時性の高い情報伝達手段であ る。この即時性のために騒がれているのである。

さて、こういう世界にいると、自分に関係のある分野の国内外のニュースを見る。また、 仲間とは電子メールで連絡を取る。仕事や遊び、その他何だって良い。電子メールが縁で 結婚した仲間もいる。電話では連絡不可能になった仲間が出ても、電子メールで指名手配 すると、誰かが居場所を教えてくれる。

使いこなせれば大変便利なのだが、どうもモラルが確立していないところがある。もっ と困るのは、何がモラルか、という点すら今だ良く分かっていないことである。

ところで、2年ほど前、あるコンピュータメーカーの人、それも部長から、どんどん電 子メールが一方的に送られてくるようになった。私一人が相手ではなく、かなりの人数に 同一文書をどんどん送っていることは、電子メールの宛て先欄で明白であった。

内容については、その大部分は発表済みとか、記者会見場で配付されたものと同一であっ た。要するに、会社のコマーシャルというか、その類いのものであった。一般には無制限 に配付することを狙った内容の物である。それに、一方的にどんどん送ってくるのだから、 転載しようと問題はないと私は思った。それで、電子掲示板に、送られてきたまま、何の 変更も加えずに転載を行なった。

すると、直ぐに抗議の電話が会社に来た。普通、インターネットを使っている者は、抗 議はインターネットを使って行なう。これは最低限の礼儀である。これができない人間に、 インターネットを使う資格はないと確信している。
電話には別の者が出たのだが、何と驚くなかれ、
「転載をするのは構わないが、発信人を明記してもらっては困る、とんでもないことを してくれた」
と怒っていると聞いた。コンピュータ・メーカーの部長をしているくらいだから、あち こちの会議に出席する。そして、私のことを悪く言っていたと、電子メールで私に連絡が 入った。

部長は、電子ニュースへの転載は希望しているのだが、自分が行ないたくはないらしい のだ。情報を外部へ勝手に漏らしたと思われるのが厭だったのだろうか。それとも、当時 はまだインターネットが商用化になる前で、営業的な内容を流すことは禁止になっていた。 だから、それに抵触すると思ったのかも知れない。それとも、電子メールの送り方に問題 があったので、それがばれるのを恐れたのだろうか。いずれにしても私には分からない。

その事件があってから、こちらから電子メールを出したが、本人からは返事がない。今 まで邪魔になるくらい来ていた一方的電子メールが、突如来なくなった。それが部長の返 事なのだろうか。

インターネットを使っていると、誰でも多かれ少なかれ問題は起こす。そして、電子メー ルで抗議とかお説教がやってきて、話合いなり論争なりが行なわれて、解決することが多 い。なのに、一方的に通信を拒絶してしまっては、何の解決にもならない。双方にわだか まりが残るだけで、最低の問題対処方法ではないのだろうか。

公の席でも問題になったので、色々な立場を取った人がいる。とにかく揉み消すことに 終始した人、きちんとインターネットを使って解決の糸口を探ろうとする人、立場上双方 を立てなくてはならなくて困った人までいる。

結果としては、揉み消しになった。大変残念である。非がどちらにある、とか言うこと ではない。起こった問題を皆で考える良い機会であったのに、残念である。さらに、その 会社の情報だって、もっと誰もが自由に読めるようにもできる可能性だってあったのだ。 憶測で変な噂が流れたりするより、正式の情報をメーカーが流してくれる方が、ユーザー もメーカーも共に助かるのではないか。

インターンシップ体験記


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