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インテリジェント・オフィス


今ではどこのオフィスでも、パソコン、ワープロ、コピー、ファックス、電話交換器な どが入っている。これらは、言うまでもなくコンピュータによって「インテリジェント化」 されている。さらに、警備システムが完備されているところも多い。さらに、ビル自体が 高度にインテリジェント化し、まるで電話のコードをコンセント(モジュラージャック) に差し込むのと同じ手軽さでインターネットに接続出来ることまで考えている始末である。 とにかく、世の中では「インテリジェント・オフィス」という言葉が流行っている。

だが、重要なことを知っているだろうか。

コンピュータ電気なければただの箱
という川柳にいうように、コンピュータは電気がなければ絶対に動かない。オフィスだけ ではなく、家庭でも電気は非常に重要である。電気が来なくなれば、照明もなく、冷蔵庫 の中身は腐りだし、エアコンは使えない、テレビもステレオも駄目になる。一切の生活が 不可能になるだろう。そのくらい電気は重要なものだ。

ブレーカーが切れるのを経験したことのある人は多いだろう。「ガシャン」と切れる音 がしたとたん、電気は止まり、一切の電気製品が麻痺してしまう。電気の使い過ぎなので ある。台所には、電気を食うものが揃っている。電子レンジ、冷蔵庫、コーヒーメーカー、 ホットプレート、トースターなど、どの組み合わせで動かすとブレーカーがぶっ飛ぶかは 主婦なら詳しく知っている。これが分からなければ料理などできはしない。

家庭だけでなく、オフィスにも一杯電気を使う物がある。パソコンやワープロは一般的 だ。コンピュータ自体は本当は大して電気を消費しないが、プリンタはかなり電気を食う。 ファックスなどは、普段は殆ど電気を消費しないが、印刷を始めると急に電気を食う。コ ピーもそうだ。最近はオフィスは明るくなったが、これは照明が良くなったためで、当然 その分電気の消費は増えている。照明は、持続的に電気を食っているので、かなり気にし なければならない。さらに、オフィスには、エアコンがあり、冷蔵庫、電気コンロ、コー ヒーメーカー、電気ポットなど電気を食う物が並んでいる。

どこのオフィスでも、ブレーカーが落ちた経験はあるだろう。コピーを取り始めたら、 しばらくすると「ガシャン」といって、ワープロの電源が切れ、それまで何時間も入力し ていた原稿が全部パーになった経験があるのではないか。まあ、何時間もの間、保存もし なくて入力し続けるなんてのは、どうしようもない馬鹿な行為である。また、電気のコー ドが床を這っていて、このコードを足で引かけて、コンセントが外れてしまったこともあ るだろう。そのとたん、向こうに座って黙々と作業をしていた人が悲鳴を上げるのを聞い たことがあるだろう。電気の配線だけはちゃんとしておかなければ駄目である。

NTTの電話線を直接使っていれば、電気がストップしても電話はそのまま使える。し かし、賢い交換器が入っていたり、賢い電話機の場合には電気が来なくなると通話もでき なくなってしまう。どこにでも内線を回せるのは便利であるが、電気がストップするとイ ンテリジェント電話もストップする。

オフィスでコンピュータを使うためには、ブレーカーが落ちないこと、つまり電気が安 定していることが何より重要である。ソフトハウスがオフィスを捜す時、最も重要な項目 として、「電気容量」を調べる。何アンペアまで使えるかである。不動産屋へ行けば、オ フィス自体は山のような長大なリストを見せてくれる。しかし、電気の使えるオフィスは 殆どないのが実情である。

それで、適当なビルに入居し、新たにトランスを増設して電気容量を増やしてもらうの である。もちろん、工事費は全額入居者が負担することになる。後からの増設の場合、削 岩機を持ってきて、床に穴を開けるなどの飛んでもない作業が入ったりして、多額の費用 が発生することがある。

とにかく、家庭でもオフィスでも、いつも電気の心配をしていなければならない。これ は常識であるが、十分に電気の使えるオフィスビルを設計しようとする建築家は皆無であ る。最初に、電気を増やせるゆとりを考慮しておけば、非常に使いやすい良いビルになる のに、殆ど全てのビルは電気不足で、毎日ビクビクしながらコンピュータを使っている。

建築家だって、最近はCADで図面を描いている。だから、もうじき図面ができ上がる と思って、コーヒーメーカーの電源を入れ、香ばしいコーヒーの香りが漂い始めたとたん にブレーカーが落ち、折角描いた図面が全部消えてしまったことを経験しているのではな いか。それでも、いまだに電気の使えるビルを設計できる建築家は皆無に近い。外観は馬 鹿じゃなかろうかと思うくらい豪華にするのに、ビルの大動脈と言える電気には無頓着で ある。

さて、本題に入ろう。コンピュータを自由に使えると銘打っている「インテリジェント・ オフィス」の話である。

某大手パソコン会社がインテリジェント・ビルに入居し、開所式を行なった。それで、 ずらっと並んだバソコンのスイッチを次々に押して動かしだした。しばらくすると、「バ シッ」と音がしてブレーカーが落ちてしまった。インテリジェント・オフィスの開所式に、 いかにインテリジェントになったかをデモしようとした途端に、駄目なことを披露してし まったのである。

その同じ会社が、別のビルに入っていて、最近一度訪れた。すると、近々よそへ引っ越 しをすると言う。まだ入居したばかりで、インテリジェント・ビルというふれこみだが、 電気が使えないので引っ越さざるをえないと言う。

仲間の会社が、新宿の超高層ビルに引っ越した。世間の目には、「良いところへ引っ越 した」と受けとられるが、実際に働いている方は悲惨である。まず、電気が足りない。窓 は開けられないから、空調をしないといけないが、夜は空調が止まってしまい、蒸風呂に なってしまうそうだ。コンピュータも人間も熱を発生するので、空調しないと地獄である。 そもそも、夜は働かないという前提でビルの設計および管理がなされているので、プログ ラム開発などには絶対に向いていない。

そういえば、超高層のその場所には、親会社が入っていたのである。さすが使いにくかっ たのであろう、自分らは逃げだし、子会社にその場所を提供したのである。

別の超高層ビルにコンピュータメーカーが入っていた。最初は技術部門も入っていたの だが、理由があって近所の普通のビルに技術部門を移した。結局、超高層は、そのイメー ジや知名度を利用し、営業と教育部門だけが残った。

同じビルに、国家プロジェクトのコンピュータ・センターが置かれ、私は一時そこへ通っ たことがある。ある休日、どうしてもそのセンターへ行かなければならない用事が出来て しまった。すると、ビルの守衛室で届を出して、やっと入ることができた。休日や夜は、 いちいち手続きをしなければ自由に出入りもできない。これでは、とてもソフトウェアの 開発には使えない。

新宿のあるビルの中で、私はコンピュータを使っていた。すると、突然電気が来なくなっ てしまった。ブレーカーが落ちていた。原因を考えたが分からない。どう計算しても、そ んなに電気を使っていない。すると、原因が現われた。管理人が、
「電気を使い過ぎるようですから、用心のためにブレーカーを落としました」
と言うではないか。コンピュータを使っていることを知りながら、勝手にブレーカーを 落とすなど、無茶苦茶、言語道断である。電気を消費し過ぎた時に自動的に落ちるように ブレーカーを設置してあるのだから、わざわざ管理人がブレーカーを操作する必要はない。 ブレーカーが落ちないようにするのが管理側の仕事であるのに、馬鹿なことを考える管理 人である。

このビルは、大変インテリジェントに警備システムがなっていた。不審者が侵入すると、 直ぐにセンサーが働いて、警備会社に連絡が入り、警備員が数分で駆けつけてくるように なっていた。

ある土曜日、ちょっとそのオフィスに立ち寄る用事ができた。幸い、鍵も預かっていた ので、警報装置を解除し、中でゴソゴソ作業を始めて暫くしたら、警備員が駆けつけてき た。何と、私が解除した警報装置を、管理人が入れてしまったのである。管理人は、自分 は間違っていないと主張し、私が警報装置を切り忘れて部屋に入ったとなじった。それで、 しかたがないので、どちらが正しいか警備会社の人に調べてもらった。もちろん、記録は 全て自動で取られていたので、管理人の間違いは直ぐに分かった。

彼こそ、「いない方がましな管理人」だろう。彼さえいなければ、結構インテリジェン トなビルであった。このビルは、ビルの見栄えは良くはなかったが、電気や電話の増設は 容易にできるように配慮されていた。

あるビルでは、よくコンピュータ関係のショーが開催される。そこで、私の関連してい る会社がショーに出展したことがある。前日にコンピュータを搬入し、動作確認をしてお いた。しかし、ショーが始まると、頻繁に原因不明のままコンピュータが動かなくなる。 それで電気を調べたら、90ボルトまで電圧が下がっていた。これでは、コンピュータで なくても正常に動く訳がない。早速電圧を正常なレベルにする安定化電源装置を運び込ん で、やっと動くようにした。

このビルは、インテリジェントを売り物にしているビルの筈だが、電気もろくに使えな い。本来は、ビル全体にコンピュータ関係の会社が入る筈だったが、殆ど入っていない。 せいぜい常設展示場として利用している程度である。展示場はゆったりとした雰囲気を出 す必要があり、電気もあまり消費しないので、ちょうど良いとのことである。

インテリジェント・オフィス関係のエピソードなら、それだけで本1冊くらい十分に書 けるが、まあ全ては電気不足と管理の問題だ。今は、ソフトハウスなどだけの問題かも知 れないが、コンピュータがどんどん普及してくると、安定な電気の供給は絶対に欠かせな い。インテリジェントとか、コンピュータとか以前の話である。もはや、電気なしでは、 家庭もオフィスも成り立たない。しかし、その根本が分からずに、通信ケーブルがどうの こうのと喚いてる「インテリジェント・オフィス」の推進者の話は、聞くだけ時間の無駄 というものである。

どこの不動産屋の広告を見ても、電気のことを全然書いていない。今や貸間に住む学生 だって大量の電気製品を持っている時代である。電気がないと人も住めないことを知らな いのだろうか。電気がふんだんに使えるようにし、そのことを広告に明示するだけで、ビ ルの借り手はいくらでもいるだろう。


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