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著作権無視


浜の真砂とデザイン泥棒はつきない、と随筆家の山本夏彦氏は書いていた。

実際、建築の世界では、デザイン泥棒は極めて多いらしい。建築設計士が盗作をするのではなく、依頼主が盗作を強要することもある。こともあろうに、公共建築に結構多いらしい。つまり、公共団体の長が、他の気に入ったデザインを見て、これと同じ物というので注文をするのである。オリジナルをデザインしたのとは別の設計事務所に依頼するのである。これでは、著作権なんて、あってなきがごとき物である。法の番人が法を積極的に犯しているのだ。

酷い場合には、巻き尺持って測量に来るのである。建築物の場合、実物が存在するので、きちんと測定し、寸分違わぬコピーを作るのである。なにしろ、オリジナルを設計した人が、
「オリジナル建築とコピー建築の写真を見ても、まったく区別がつかないくらい良くコピーされている」
と驚嘆していた。

これには、著作権違反以外にも、重大な問題がある。その問題に気付いていないことが問題だ。

どんなデザインにしたって、色々問題がある。全てが成功ではない。部分的にはあちこち失敗しているのである。オリジナルをデザインした者には、それらが分かっている。実際に作るという作業をして初めて気がつくような個所も多い。しかし、でき上がったものの複製品を作ったのでは、悪いところは悪いままである。

出版社で情報処理試験の受験参考書を出版していた。アセンブリ言語という、コンピュータについて深く理解していないと使えない言語の本であった。といっても、情報処理試験で出される程度だから、大したことはない。

情報処理試験など、私および私の仲間達の間では全く評価すらされないが、世間のプログラマ希望者とかプログラマは結構受験するようである。これで就職に有利になったり、技術手当がついたりするからだ。したがって、受験参考書は良く売れるので、どこの出版社も出したがる。

当時、受験参考書の誤りを調べたことがある。ある参考書の説明に誤りがあると、全く同じ誤りを他の参考書が犯しているのである。きっと他の参考書を見ながら執筆したのだろう。このくらいのことはよくあることで、とやかく言うほどのことではない。 色々調べていたら、奇妙な参考書が1冊見つかった。どう考えても、当時いた出版社が出している参考書から説明や練習問題を丸写ししているとしか思えなかった。極めて悪質な著作権違反である。出しているのは、理工学書を専門に出している老舗である。著者はどこかの大学教授だったと思う。

それで、
「貴社の参考書は、ちょっとおかしいのではありませんか」
という手紙を編集部宛に出した。なかなか返事が来なかったので、まあ事実関係でも確認しているのだろうかと思っていると、やっと来た。「本人はご病気です」とだけ書いていた。都合が悪くなると病気になる。まるで政治家と同じだ。

以前、ある出版社の手伝いで、地方のソフトハウスの開発したソフトウェアの紹介を私が行なうことになった。当時はまだパソコンという言葉さえない時代で、ソフトウェアが渇望していたので、喜んで普及に手を貸した。雑誌に記事も書き、講習会で講師もした。いずれも上手くいき、その出版社とソフトハウスは協力関係になった。

それからしばらくして、とんでもないことが分かった。そのソフトハウスが開発したと思っていたものは、実は既にその全容がコンピュータ専門雑誌の別冊に掲載されており、誰でも自由に使える物だった。開発なんて真っ赤な嘘、100%完璧な著作権違反、いわゆる海賊版であった。

法務的なことは私の担当ではなかったので、その後どう処理されたかは知らない。しかし、そのソフトハウスはかなり有名になった。あのくらい悪どくやらなければ発展できないのかとしみじみ思った。

インターンシップ体験記


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