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経験年数と35歳定年説


どこの社会も同じと思うが、コンピュータの世界も経験を重視される。受託や出向をす るとき、つねに経験年数を聞かれる。つまり、報酬が経験年数に大きく左右される。コン ピュータの世界でも、実務経験が10年を越さないと、一流とは判断されない。いや、1 0年を越えると、最低限ベテランと判断されるようだ。

そして、それと相反するのではないかと思う言葉に、「35歳定年説」というのがある。 ソフトウェア技術者は、若くないといけないことを象徴する言葉である。とにかく若くな いと、コンピュータの進歩についていけないことを言っている。

コンピュータの世界では、変化が激しく、今まで使っていたプログラミング言語が廃れ てしまうことがある。だから、自分が毎日使用していた言語がそうなってしまえば、新し い言語を覚えざるを得ない。新しい言葉を使えないプログラマは、廃棄処分以外、まった く使い道がなくなる。

今問題になっているのは、COBOL(コボル、事務用言語)とか、FORTRAN (フォートラン、技術計算用言語)しか使えないプログラマの処置である。これらの言語 の需要は減る一方である。ことに、COBOLプログラマは、ちょっと前まではプログラ マの過半数を占めていた。しかし、データベースの発達で、COBOLを使うことは皆無 に近くなってしまった。彼等がプログラマを続けたいのなら、他の需要の高い言語を習得 する以外に生きる道はない。

日本の大企業は、彼等にとても親切である。需要がないのは分かっていながら、わざわ ざ彼等のために、使われることもないCOBOLの仕事を捏造している。そういうことを しながら、一方で、新しい言語であるC言語とか、データベース言語の教育を行なってい る。

私から見れば、どうしてそんなに馬鹿に親切なことをするのかと思う。コンピュータ言 語に流行り廃りがあるのは当然で、特にCOBOLは近いうちにそうなると言われていた のである。

そもそもコンピュータ技術者と自認しているなら、複数のコンピュータ言語を使いこな せなくてどうするのだ。少なくとも、新しい言語に移れなくなってしまったならば、もう 引退した方が絶対に良い。もはや、プログラマでもないのだから。コンピュータの考古学 博物館くらいしか採用できる場所はない。

ここは日本である。色々騒がれているが、まだまだ終身雇用の世界である。コンピュー タ技術者として採用した以上、ずっとその職を与え続けなければならない。

ロボットとか自動制御の発達は目覚ましい。これらは、コンピュータの進歩のお蔭で今 日がある。でも、これらの発展で、多くの職業がなくなったり、内容が大幅に変更になっ た。とりわけ、家電製品を組み立てるための膨大な数の単純労働者は不要になった。

機械加工をするのに、人間が直接機械を動かしてすることは非常に少なくなった。自動 制御された工作機械が部品を加工していく。24時間自動運転されている工場が多数ある。 たばこの販売だって、昔は店での販売が中心だったが、今は自動販売機が主流である。

コンピュータの発達によって、今までの仕事がなくなったり、内容が大きく変わったり、 新しい仕事が発生してきたのである。あらゆる人が、これらの変化の波を大なり小なり受 けている。

それなのに、一番コンピュータに近いところにいるプログラマが、その波についていけ ないとは何事ぞ。

経験年数は、ある意味では有用である。

世の中、「表」の世界だけではない。「裏」の世界を知らなければ、何もできない。少 なくとも大失敗をするであろう。これは、経験を積むしかない。殆ど公表されていないこ とであり、本や雑誌で身につけることはできない。

その他にも、人の繋がりが重要である。「コネ」である。仕事を取るためには、コネは 絶対に重要である。それだけではなく、コンピュータはどんどん変化していくので、自分 だけで情報を押さえることは、どんなに頑張ってもできるものではない。

こういうとき、気軽に聞ける人を持っていないといけない。いわゆる、プログラマ仲間、 技術者仲間である。有能な者は有能な者同士の仲間、無能な者は無能な者同士の仲間とな るわけだが、これは絶対必要である。特に小さな企業で働いている場合には注意しないと いけない。井の中の蛙になり、あっという間に世間知らずになってしまう。

「経験年数」と「35歳定年説」。どちらも正しいと思わないが、世間はこの2つの矛 盾の間で振り回されている。両方とも無視するのが正しい。有能なのが有能なのだ。これ らの言葉は、自分で判断できない人が、判断の基準としてすがる拠り所に過ぎない。


我輩は猫である


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