書名 本はどのように消えてゆくのか 著者 津野海太郎 発行日 1996年2月10日初版 発行元 株式会社晶文社 頁数 四六版、218頁 定価 1900円 ISBN 4-7949-6244-4 なかなか楽しい本であった。実際に本を作っている人の目から見た、本の将 来に対する考察である。もろろん出版界の人間であるから、百癖もあるような 印象を本からは受けるが、実際どうなのかは分からない。
著者は1938年生まれであるから、もうDTPとかを自らやる年ではない はずであるが、その性格から、マッキントッシュを購入し、DTPをやり、さ らにはOCRをもこなしているオタク的ところのある出版人である。
そして、著者は「本」に特別にこだわる出版人であり、本の本を何冊も出し ている。
本書は、最近書いた「本」の将来とかについてのエッセイをまとめ、さらに 加筆したものとして出す予定で進んでいたのであるが、インターネットとくに WWWが急激に普及し、もうWWWを自ら作成し、その可能性をさぐるしかな いということで、HTMLに手を出したあたりのことが、「インターネット電子出 版入門記」として付録としてついている。
本書は、OCRの話から始まる。この手の本は、普通は、DTPなどから始 まるのであるが、紙の本からデジタルなコード化された文字データに変換する 話である。確かに文字認識の能力は著しく向上したようだ。いまや、スクラッ プブックは、OCRで行なう時代になったのか。
「原稿用紙ぎらい」は面白かった。原稿用紙の升目は、活版印刷の都合によっ て著者に押しつけられたものである。もともとは便箋のように、縦に等間隔に 線が引かれていただけなのに、活版印刷の出現により、等サイズの活字に都合 がいいように原稿用紙が枡目になった、という話である。つまり、枡目に1字 ずつ書き込んでいる作業は、結局非人間的な活字というもの、あるいは本来編 集者がやるべき作業を著者がやっているという意見である。
NECが「電子ブック」なるものを出して大手書店などでデモをしていたが、 そういう電子本はことごとく失敗した。しかし、インターネットが出てきて、 情勢は一変した。それで、著者も慌てて、いろいろ試みているのが面白い。
実際、本の将来はどうなるか分からない。インターネット関連の本がどんど ん作られているが、これは結局いままでの本を不要にするための情報提供でも ある。つまり、自分の首を自分でしめているようなものである。まあ、時代の 変化とはそんなものであろう。
本に興味のある人にとっては、本書は必見であろう。