書名 だれが「本」を殺すのか 著者 佐野眞一 発行日 2001年2月15日初版 発行元 株式会社プレジデント社 頁数 四六判、464頁 定価 1800円(本体) ISBN 4-8334-1716-2 どうも、本に関する本があると読んでしまう傾向がある。これは、いまだに原稿なるものを ときどきであるが書いていることと関係するかもしれない。今は、その程度しか出版とは 関係していないが、昔は某社編集部の名刺も持っていて、編集部員の顔で記者会見に出席したり、 校正から著者、翻訳者を調達することなどもやっていたし、特定の出版者に属さなくなってからは、 いくつかの出版社に出入りなどをした。こういうことがあるためであろうか、この世界から 未だに足を洗い切れないでいる。
さて、本書は、近頃良く言われている出版不況の話が発端だと思う。実際、出版社は良く つぶれている。最近の大きいのでは、本書でも取り上げられていた 中央公論であろうか。以前は中央公論社であるが、今は中央公論新社に改名されてある。 書店は、出版社以上に潰れている気がする。零細な書店は、急激に減少しつつあり、 大型店、チェーン店などが急激にシェアを伸ばしている。さらに、雑誌の売上は、 とっくにコンビニが占拠してしまった。
出版不況と言われながら、じつは出版点数だけはどんどん増え続けている訳で、 当然書店店頭に並べられない本がどんどん増え、返本率は確実に増大しているようである。 私の本『Cプログラミング診断室』は、 絶版から復活したけれど、そんなことはまずないのが出版界である。 実際、超大手書店の倉庫番の人から、荷を解かずにそのまま返本しているのが多数有る ということを20年近く前に聞いたことがある。今は、もう関係社の常識になっているのであろう。
本書は、本に関係するあらゆる分野についてのルポという感じで話が進んで行く。 多くのインタビューなどを通じて、それぞれの分野の人々の意見なり、現状分析を のせながら、著者の考えを述べているのである。各分野が、それぞれ1つの章になっていて、 書店、流通、版元(出版社)、地方出版、編集者、図書館、書評、電子出版とある。
しかし、2つ大きなものが抜けているのに気がつかないだろうか。著者と読者という最も重要な 両端の部分については書かれていない。まあ、ここを書くのはなかなか大変だし、あまりにも 捉えがたいからかも知れないが、この2つを除いて『だれが「本」が殺すか』と言われても、 ちょっと違うのではないかと思ってしまうのである。
でも、この点を除けば、実際よく調べて書いていると思う。出版の本を、初期生産者と最終消費者を 除いているが、その間に存在する組織ににつて、これだけ一気に、それもかなり突っ込んで書いた本は なかったように思う。かなり分厚い本であるが、それでもこれだけの分野について書こうとした場合、 この厚さではかなり不足気味であるが、これ以上分厚くなってしまうと、それこそ売れなくなって、 この本が死んでしまうかも知れない。何事もほどほどが良いような気がする。
私自身、本は読まなくてもとりあえず買ってしまうし、本屋があればとりあえず入ってしまう癖がある。 当然、大きな書店に行く機会も多い。しかし、どこの書店も、本書に書いているように、特徴がないのである。 地方ならともかく、東京の場合、各書店がもっと特徴を出せばと常々思っている。 紀伊国屋書店など、同じ新宿地区に、新宿本店と新宿南店があり、どちらも相当な床面積がある。 しかし、2店の間には、ほとんど差がないのである。 分野により、思いっきり分けて欲しいと思っているが、そうはなりそうもない。 コンピュータ関係だけ、文庫だけ、文学書だけ、ビジネス書だけ、語学関係だけ、実用書だけ という感じにならないだろうか。
題名からは、出版界全体が非常に悪いように感じるであろうが、この長期安定下降路線を まっしぐらに進んでいる中で、着実に業績を伸ばしたり、ベストセラーを出し続けたりしている ところもちゃんと紹介している。もちろん、経営的に成功しているのばかりではなく、 もっと自らの意志に従って本とかかわっている人々の紹介もかなりある。
さて、本書の題名『だれが「本」を殺すのか』の答えであるが、本書には何も書いていない。 だれが「本」を殺すのかについては、読者が考えるための材料だけを提供している本のように思える。
本書は、題名から受ける印象よりも、この本が提供してくれる本の世界に関する様々な情報を 考えると、本に興味のある人には充分読む価値はあると思う。 著者の考え方に関しては、半分同意できるがという程度かな。
2001年5月5日