その他の読書感想文
書名 進化しすぎた脳
中高生と語る[大脳生理学]の最前線
シリーズBLUE BACKS B1538
著者池谷裕二
初出2004年10月25日、朝日出版社
発行日2007年1月20日
発行元株式会社 講談社
頁数新書判、397頁
定価1000円(本体)
ISBN978-4-06-257538-6

今世紀になってから、神経科学が非常に進歩した。 前世紀末までは、脳に関する研究は遅々として進まなく、ひじょうにぼんやりした情報しかない状態だった。 本を読んでも、どうも胡散臭いものばかりで、これが科学かと思わせるものが多かった。 急に研究が進みだしたのは、神経科学関係者が急に頭が良くなったり働きだしたからではなく、 研究を進めるに必要な環境が整ってきたからではないかと思う。

というような背景もあるし、このところ、脳科学の著作もたくさん出て来たし、 この本も、単行本から新書になって、安くなったので買ってみた。

最近の脳科学の進歩を知らない人が読むと、かなり驚くかも知れない。 脳についての知識が20世紀中に習ったものであったらならば、 この本でなくても良いが、最近の情報に基いた本をとにかく読んだほうが良いだろう。

本書には、脳は非常にいい加減で、曖昧で、コンピュータのようには速く動いたりしない。 信号が脳に伝わり、処理されて、それで体のあちこちの筋肉を動かすのが人間ではあるが、 それは脳のごく一部の処理でしかないという。そういう処理をフィードフォワード処理といい、 でてきた出力をまた前段の入力に戻すフィードバックの神経回路が脳の殆どだという。 要するに、脳は、はぼフィードバック制御だけで動いているらしい。

プログラムの世界、あるいは自動制御、人工知能などの世界で考えてみると、 延々と頑張って処理しようとしたときは失敗の連続で、 頑張るのを止めた瞬間に問題が解決できることが良くある。 脳は、並列処理能力は凄いが、その他はどうも大したことはないようだ。 でも、人工知能は、まったくといって言いほどまだ無能だ。 そういうのを考えると、今のプログラムのあり方は、 何か根本的な所で間違っているのではないかと考えさせられる。

詳しいことを書くのは面倒だし、本書は正確さよりも分かりやすさを狙って書かれていて、 まだ著者自身の考えどころか仮定でしかないものも含まれている。 最先端なんで、内容が変化するに決まっている分野なので、非常に面白い。

まえがきに、物理学者ファインマンの言葉の紹介があった。 「高校生レベルの知識層に説明して伝えることができなければ、その人は科学を理解しているとは言えない」 私は科学者ではなく初心者だが、 それでも、できるだけ難しい専門用語を用いずに説明できる能力を少しでも身に付けたいものだ。

大脳は、無意識の処理が大部分で、意識はごく一部に過ぎないとか、 私が日ごろ(前世紀)から思っている結論と似ていることが多く、読んでいて楽しくなった。

科学そのものについて、最後に一言。 科学は、結局は人間の脳が作り出したものである。 もしかしなくても、幻影かもしれない。 あやふやで、とても論理的とは言い難いような気がする。 いいかげんな脳の上に科学は構築されている。 あまりつきつめると、哲学になってしまいそうだ。

たぶん、いいかげんな脳の上に構築されているから大丈夫だと思うことにしよう。 いいかげんこそ正しいらしいから。

2007年2月9日
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