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星 新一


書名きまぐれ星のメモ
文庫角川文庫 ほ−3−1
発行昭和46年5月30日
頁数383ページ
定価640円
ISBN4-04-130302-8

星新一は、ショートショートという非常に短い作品を書く作家である。この 本は、その著者の、随筆のたぐいをまとめたものである。

まず、本書は、昭和46年に出版されており、ここに集められた随筆等はそ れよりも前のもので、読んでいるとさすが時代を感じずにはいられない作品も 多くあった。

星新一の作品として、最初からこの本を読むのは、あまりお勧めできない。 やはり、氏のショートショートを少なくとも10冊くらいは味わってからでな いと、読んでもつまらないか、充分に意味あるものにできないのではないかと 思う。

星新一のショートショートは、非常に簡潔な文章で、小学校の国語の教科書 に載せても易しすぎるのではないかと思われる平易で明解な文章である。それ にもかかわらず、非常にするどい社会批評が貫かれているのである。これがな ければ、ただの短篇に過ぎないだろうが、何気ない文章の中に、グサグサとく るものがあるので、読むのを止められなくなる。短篇を書くのが目的ではなく、 この鋭い社会批評をさりげなく行なう為にショートショートという形をとって いるにすぎないようの思える。

そして、本書は、星新一の随筆であり、氏がどのようにして、あるいはなぜ そのようなショートショートを書いているか、書き続けているかについて、随 筆的に書いたものを集めてある。

平易でいて、実はグサグサと書いてしまう。そして、厭味がまったくない文 章というのは、理想とおもうし、憧れてしまう。少しは氏のノウハウが手に入 らぬかと思って読むのだが、そうやすやすとは習得できないようだ。

書名明治・父・アメリカ
文庫新潮文庫 ほ−4−17
初出昭和50年9月筑摩書房より刊行
発行昭和53年8月25日
頁数243ページ
定価360円
ISBN4-10-109817-4

表紙の絵は、今は変わっているかも知れない。手元にあるのは、昭和54年 の第4刷で、定価240円である。

本書は、著者星新一の父、星一の若き日の伝記である。星製薬という製薬会 社の創業者である。 そして、星薬科大学創立者でもある。 そして、確か突然父が死に、若き星新一は苦労の末、星製薬をやめてしまい、 作家の道を歩むことになった。

そういうことは、星新一あるいはその作家仲間のエッセイ等を読んで知って いた。また、星新一のショートショートを読むと、ただの短編とかSFとかで はなく、厳しい社会に対する目、批判精神がある。小学生でも読めるような内 容であるが、そこに込めているものがある。

そういうこともあり、星新一自身に興味があり、星新一が父を書いた本であ るということで読んだ。

まあ、一言でいって、「すごーい」という本である。 著者が星新一氏であるので、父のことでも淡々と書いているのは想像通りであ るが、内容が凄過ぎる。

登場人物は、明治維新から明治の富国強兵の時代に教科書などの出て来る人々 がぞろぞろと出て来る。あまりのすごさにびっくりである。

福島県出身の星一は、苦学しながら東京で学び、さらにアメリカへ渡ってゆ く。まずは西海岸へ行くのだが、目指すは東海岸のニューヨーク、そしてコロ ンビア大学へ進む。もちろん、すべて費用は自分で稼ぎながらコロンビア大学 を卒業し、日本とアメリカの文字通り架け橋になる。「日米週報」をニューヨー クで発行する。

その辺りに登場するのが、野口英世、伊藤博文、新渡戸稲造、後藤新平、津 田梅子、などである。内容も凄いし、登場人物も凄い。もう、明治の歴史を勉 強しているような感じである。

星一の生きざまを読んで自分の過去を振り返ると恥ずかしくなってしまう。 時代が違うとはいえ、すさまじいものはすさまじい。

私は伝記を読むのは好きでないので殆ど読まない。何しろ、たいていの伝記 は美化されているのがひしひしと伝わり、あまり気持ちよくない。しかし、本 書は、読みごたえがある。ありすぎる。

書名エヌ氏の遊園地
文庫新潮文庫 ほ−4−31
初出昭和41年2月三一書房より刊行
発行昭和60年7月25日
頁数274ページ
定価360円
ISBN4-10-109831-X

ショートショート、つまり超短い短篇の名手の星新一の作品集の1つである。 氏の作品には、主人公の名前がエヌ氏とか、エフ氏とかが非常に多い、これは、 主人公がどういう人間かがさっぱり分からなく、あるいは読者に勝手な想像を させないために、そういう無機質な名前にしてあるらしい。

アルファベットのN氏にしないのは、アルファベットのNは、文章中で目立 つからいけないためらしい。

さて、本書は、主に、探偵、泥棒など物騒な人物が出てくるショートショー トである。SFではない。殆どの話は10ページ未満で、非常に短い。「あっ」 というまに終りに到達してしまう。この、ほんの原稿用紙にして10枚程度で、 ちゃんとした話になっている。

その前に重要なことがあった。星氏の作品は、文章が極めて平易なのである。 あまりにも平易なので、小学生にでも十分読めるような文章なのである。ストー リーも大変分かりやすい。

もし、これだけで終れば、子供用の読み物で終ってしまうだろう。しかし、 作品には、最後には、かならずグサッとくるところがある。最後は、予想もし ない結末になっている。これだから止められない訳である。

でも、それだけでは説明不足だ。ただの短篇集ではなく、すごい社会批判が 含まれているのだ。それも、さりげない文章でやっているところが凡人でない ところ。

それから、星氏の本を私は数十冊読んでいるが、これは、なんとか星氏のよ うに、平易な文章を書かなければならないという思いがあるからなんだが、残 念ながら星氏のような文章は永久に書けそうにない。


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