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中野 不二男


書名「からくり」の話
文庫文春文庫 な−23−3
初出1993年12月文藝春秋刊
発行1997年1月10日
頁数263ページ
定価450円
ISBN4-16-727908-8

パズル愛好家の私にとって、「からくり」の本を見つけると、中身も確かめ ずに買ってしまう癖がある。不思議な仕掛けについての読み物は、実に楽しい ではないか。どんなものが解説されているのだろうか。

これは、文庫本である。ということは、広く一般の人々を対象とした内容に なっている。「からくり本」を見つけると、仕事も忘れてじっくりと読みたく なるような者を対象とした、狭くて深い内容の本の筈はない。

本の構成であるが、見開きの2ページで、1つの話が完結する。だから、全 部で120話くらいある。それも、すべての話に、そこで紹介する「からくり」 のイラストが入っているので、実際の文章の量は、1話につき1ページ半にし か過ぎない。

したがって、複雑な「からくり」をじっくりと解説するのではなく、古今東 西あらゆる「からくり」にちなんだ話題が入っている。

例えば、金メッキなどの「メッキ」という言葉であるが、昔から「滅金」と 書き、奈良の大仏を滅金した話とかも出てくる。中国から渡来したした言葉か も知れない。つまり、日本に昔から、奈良時代には既に文献にも現れた言葉ら しい。「鍍金」という書き方もあるようだが、これは最近の書き方らしい。

問題の「滅金」であるが、「金が滅する」から「滅金」と呼ぶようになった らしい。つまり、水銀に金を溶かしこみ、金が滅するから滅金とよぶ。金の溶 けこんだ水銀(アマルガム)を大仏に塗り、後で水銀を飛ばすことで滅金した のだ。

こういう方法でしたとかいう話は聞いたことがあったが、「滅金」の由来ま で分かったりして楽しいものである。

それにしても、本書は、江戸幕府の技術進歩の徹底的な弾圧について、何度 も何度も言及している。西欧では、新しいアイデアが市民生活に、つまり商売 に活かせるかをずっと競って来たが、江戸時代以来、日本では、アイデアを単 なるアイデアであり、ただ面白いという程度で押え込んでしまうようにしてき たことへの糾弾が厳しい。

江戸時代には、下手に発明などしようものなら、投獄、極門が常識であった のだ。何しろ生産性が向上するなどということが起こっては、幕府の基礎が崩 れてしまう。とにかく生産性を下げ、より多くの人手を必要とし、つまり職に あぶれる人を少なくすることが重要だったのだ。

そして、これは、現在に至るまで脈々と続いており、現在の産業界、大学な どにもそれは多大な影響を及ぼしていることが本書の主張のようである。つま り、形の上だけは西欧に引けを取らないように見えていても、まだまだ日本の 技術というものは、精神構造において、50年も100年も、あるいは数百年 も遅れているという主張なのである。

でも、確かに、そうなんだよな。技術の最先端をいっているように世間で大 いに誤解されているソフトウェア業界をみてもよく分かる。腕の良いプログラ マが短時間でコンピュータを調整したり、品質の良い短いプログラムを書いて も評価されることは絶対ない。下手なプログラマが、「分からん、分からん」 と悩んで次々とコンピュータを破壊したり、動作の保証がまったくない長い汚 いプログラムを何とか動かそうとして、汗を流している方が評価される。

そう、「からくり」とか「あるごりずむ」とかを考えて、汗を流さずにすま そうとしては、今でも社会的に極門にされる。くわばら、くわばら。


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