文庫本のホーム清水義範

*人物*/清水義範


書名清水義範ができるまで
文庫講談社文庫 し−31−39
初出あちこちの雑誌に掲載、
2001年8月大和書房(単行本)
発行2007年5月15日
頁数331ページ
定価571円(税別)
ISBN4-06-275735-5

著者自身が、どのようにして、作家になったかに関連することを書いたエッセイをまとめたものである。 ということで、この本を読めば、最初はまともなことが書いてあるように思えるが、 読み進むにつれて次第に内容が無着苦茶になってしまう。 どこから出鱈目が始まっているのか境目がよくわからないという独特の書き方をする作家だが、 どうしてそのようなタイプの作家になったのかが分かる。(たぶん)

しかし、彼のエッセイは、エッセイであるにも拘らず、 どこか誤魔化しが含まれている気がして、完全には信じられないのであるが、 子供のころから作家になろうとして、長い下積み時代、 文章は書けて、新人賞の候補になる程度までは行くのだが、どうしても賞が取れない。

実は、どんな文章でも器用に書きこなす能力が災いして、賞が取れなかったし、 またメジャーな出版社から本を出すこともできなかったのである。 ということは、文章の上手下手と、作家になれるかどうかはあまり関係がないということのようだ。 強烈な個性、特徴、尖ったところがあることが作家になる条件のようだ。

清水義範の場合、文章を器用に書くという能力を歪んだ使い方をして、 パスティーシュという独特の世界を切開いたのであった。

上手、器用であることは、不都合を招くこともあるようだ。 それさえわかれば、かなり安心できた。

私自身、作文は嫌いだったし、今も書くのは面倒だし、骨の折れる作業である。 しかし、ときどきそういう作業から逃げられないことがある。 できることなら、原稿締切りから逃げる方法でも書いてくれると多くの人に有益と 思われるのだが、そこまでの配慮はなかった。残念である。

2007年6月1日

 
書名発言者たち
文庫文春文庫 し−27−5
初出1991年〜93年「オール読物」
1993年10月文藝春秋(単行本)
発行1996年11月10日
頁数249ページ
定価420円
ISBN4-16-755105-5

新聞に投書する人、テレビでちょっとでもミスがあると電話する人、本や雑 誌にミスがあるとミスを指摘せずにはおられない人、読んでくれる人もいない のにせっせとミニコミ誌を作成して勝手に送ってくる人びとを描いた作品であ る。

まあ、ようするに、そういう変執狂的な人びとについて、清水流の誇張をし て書いたものである。

ところで、私は今、インターネットで色々な事をしている訳だが、インター ネットのホームページで発言している人がどんどん増えている現状をみている と、このノンフィクション的フィクションが、ただの読み物ではなく、インター ネットでの個人の発言についての描写を思い浮かべない訳にはいかなくなって しまった。

「読んでくれる人もいないのにせっせとミニコミ誌を作成して勝手に送って くる人びと」なんか、もう今のホームページの現状そのものである。インター ネットの、クールなページの作り方、ホットなページの作り方などの本が書店 に堆積しているが、あんな本を読んで、小手先の技術を身につけるより、本書 を読んで、「発言者たち」はどういうふうに行動し、どう受け止められている のか、醒めた目で書かれた本書を参考に、考え直した方が良いと思う。とくに、 ぜんぜん見てもらえない人びとは、そうすべきである。


 
書名私は作中の人物である
文庫講談社文庫 し−31−13
初出1993年7月講談社(単行本)
発行1996年6月15日
頁数265ページ
定価460円
ISBN4-06-263259-4

清水義範得意の、パスティーシュの短篇集である。

最初が、死んだミミズ自身が語っている話で始まるので、これは面白いかと つい思って読み始めたら、数ページでミミズの話が、唐突に終ってしまう。そ して、冒頭の話が、作中の人物についての実験であったことが分かる。

作中の人物が勝手に話をしたりすると、小説などめちゃくちゃになるのだが、 あえてそれを試みているのである。が、どうも私には、意図は分かるが、あま り楽しめなかった。

第2作「魚の名前」は、方言について、面白おかしく書いたものである。最 初はちょっぴり方言を入れ、そのうちどんどんでたらめが増えていき、よくも こんなむちゃなこと書くなあ、という話で、ここは遅い昼飯を近所のレストラ ンで食べて食後のコーヒーを飲みながら読んでいたので、笑えて困った。

本書は、10本の短篇からなっているが、けっこう捻りがきついというか、 無理に捻っている感じがあって、意図は分かるが、どうも読んでいて笑いがこ み上げて来ることが少なかった。まあ、清水義範の作品は、読者の知識、経験 により、笑えたり笑えなかったり、あるいは、「何書いてんだ?」と思ったり するのだが、今回の作品集には、そういうのが多かった。


 
書名主な登場人物
文庫角川文庫 し−11−6
初出1991年5月10日実業之日本社(単行本)
発行平成6年5月25日
頁数349ページ
定価600円
ISBN4-04-180407-8

本書の題名にもなっている「主な登場人物」という短編は全然面白くなかっ た。外国の長編小説には、最初に登場人物の表が載っていることがある。これ をネタにした清水流のでっちあげ短編である。私は翻訳本は文化の違いからか 肌に合わないので読まない。だから面白味が分かんなかったのかも知れない。

それよりも、「実用文書承ります」の方が、私には面白かった。これは、こ の世の中、何でもかんでも書類みたいなものを出さないといけないのだが、み んなどんどん文章が書けなくなっている。でも、書かざるを得ない。それで、 定年退職したおっさんが、「実用文書承ります」屋をやった話である。
もちろん、清水流の滅茶苦茶な「実用文書」がいっぱい登場してくる。

それから、「朝礼の話題」も良かった。日本では、多分今でも多くの企業で は、週1回程度の朝礼はやっているのであろう。会社によったら毎朝やってい るところもあるようだ。

以前、ある会社へ朝礼の時間に行ったら、担当者が「朝礼を抜けられる」と いって、大変喜んでいた。つまり、朝礼とは、結構聞いている方にも苦痛なの であろう。そんな会社に私は就職したことがないので良くは分からぬが。

この「朝礼の話題」は、朝礼で話をする側のことを書いている。もう、滅茶 苦茶もいいところ。

でも、全体としては、他の清水義範の本と比べると、笑いころげられる話は 無かった。それなりの面白さであった。ま、いっか、てなところである。


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